「夢はたくさんあり過ぎて
どれかひとつは選べない」

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

ダウン症の若者たちの現実を描く
エミー賞ノミネート「Born This Way」の出演者
エレナ・アッシュモアさん

Photo © Keiko Fukuda

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 この原稿を書いている時点では、まだ発表されていない2016年のエミー賞。テレビ界のアカデミー賞とも称される権威ある賞だ。今年、ノミネート作品の中でも一際話題を集めているのが、A&Eチャンネルのリアリティーショー「Born This Way」である。

 話題の理由は見れば明白。この番組では、7人のダウン症の若者たちが主要な登場人物だ。彼らの実生活と夢、障害を持つゆえの葛藤、そして親との愛情関係が率直に描かれている。ダウン症の人々の実像に迫った番組は過去に例がない。彼らもハンディキャップを抱えながらも一生懸命に生きているのだ、家族はそれを生まれた時から大人になった今にいたるまでずっとサポートしてきたのだ、ということがストレートに伝わってくる。しかも主人公たちのイノセントなユーモアに癒されるシーンも随所に散りばめられ、エンターテインメント作品としても秀逸だ。

 この7人の若者の中に、日本人の母親を持つ、日本生まれのエレナ・アッシュモア(29)さんがいる。父親はオーストラリア人。7カ月でオーストラリアに移り、その後、父の仕事に伴い、アメリカのロサンゼルス、イギリス、さらにオーストラリアと移転した後、2002年に再びロサンゼルスに渡ってきた。

 障害者の自立を促す、UCLAのエクステンションコース「パスウェイ」に通った後のエレナさんに「Born This Wayの」出演依頼が舞い込んできたのは、教会を通じての友人の推薦だった。「テレビのプロデューサーがエレナのような若者を探している」と声がかかった。オーディションではなく、エレナさんが暮らすロサンゼルス郊外のグループホームにプロデューサーがやってきた。1対1の面接の後、合格が告げられた。歌やダンスが大好きなエレナさんは出演決定に胸を躍らせた。

TVの中の自分に
「スーパーエキサイト」

 実際に放送が開始されると予期せぬ事態も起こった。番組には、その時々の感情をネガティブなものまでそのまま露出させてしまうエレナさんの場面が度々登場する。娘の衝動的な態度に絶望的になる母親、広美さんの姿も幾度となく紹介される。日本舞踊の踊り手であり、完璧を求める性格の広美さんは、エレナさんが社会から認められるようにと無我夢中で様々なことを教えてきた。しかし、ままならない。それでもテレビでありのままの関係を視聴者に見せることで、同じような状況の人への励ましにもなり、また広美さん自身も、「娘をビーイングのままで受け入れればいいのだ。ドゥーイングは大切ではないのだ」と気づいたという。

 当事者であるエレナさんに「テレビに出ている自分を見てどう思う?」と尋ねると「『わあ、私はスターだわ』とスーパーエキサイトする。でも、自分の行いがネガティブにうつっている時は反省して、次はちゃんとやらなくては、と思うの」と答えた。

 編集の手が加えられ、番組ではネガティブな性格がクローズアップされがちなエレナさんだが、グループホームで会った彼女は、とても29歳には見えない可愛らしい雰囲気の明るい女性だった。

強い絆で結ばれているエレナさんと広美さん(左)。広美さんも番組に出演中Photo © Keiko Fukuda

強い絆で結ばれているエレナさんと広美さん(左)。広美さんも番組に出演中
Photo © Keiko Fukuda

「日本の家族が恋しい」

 日本の何が好きかを聞くと、「寿司! 寿司がナンバーワンね。それからそぼろご飯に天ざるそば」。取材したのは8月だったが、9月には久しぶりに日本を訪ねると言う。「随分会ってないから。日本の家族が恋しいの。そしておじさんのラップトップをもらわなくちゃ」。広美さんに何の事かを尋ねると、エレナさんを自分の娘のように可愛がっていた広美さんの弟さんが今年の頭、電車の事故で亡くなったのだそうだ。形見として、エレナさんは叔父さんのパソコンを受け取ることになった。

 広美さんは「エレナはエモーショナルなことを的確に受け止めることができません。瞬間的に後先を考えずに行動してしまう。 私が彼女を育ててきた上で大変だったのは、今でもそうですが、リーズニング(理由付け)ができないこと。 時間の感覚でも、『あと5分』と伝えても、5分と30分の差がわからないのです」と苦労を語る。

 エレナさんに将来の夢を聞いた。「たくさんあり過ぎて、どれか一つは選べない。でも詩人になりたいな。それが当面の夢。それから黄色い色の、コンバーチブルの車も欲しい。ジャンバジュースでも働いてみたい」。今後、彼女が出演する「Born This Way 」がオンエアされ続ける限り、周囲の環境はめまぐるしく変わっていくにちがいない。エレナさんの夢もその時々の状況で変わっていくのだろうか。

Photo © Keiko Fukuda

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2016年エミー賞受賞!
「構成のないリアリティ部門 (outstanding unstructured reality program)」

Born This Way
A&Eで毎週火曜日の10/9Cに放送中。以下のオフィシャルサイトでエピソードの一部を視聴できる。
http://www.aetv.com/shows/born-this-way

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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