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駐在員の長時間労働
文/在米日本人フォーラム(Text by Japanese Forum USA)
- 2017年6月16日
電通だけではない、駐在員の長時間労働
他国企業に比べ現地化の苦手な日系企業
受付の人に案内された会議室で待っているとそこへ私の面談相手の方が入ってきました。彼は目をしょぼしょぼさせていて、私は挨拶を終えると彼につい「お疲れのようですね。」と言ってしまいました。彼はいかにも疲れ切った様子で、「もう毎日、命を削られる思いです。」と言葉を発しました。また別の会社を訪問した時には、「こんな仕事をするために派遣されたのではないと思っています。」と話す方もいました。アメリカの日系企業に働く日本人の方々を見ていて、最近の彼らの仕事振りがひと昔前と比べ大きく変わったように感じます。それはリーマンショック以後、駐在員が削減された一方で、業務内容が多様化し仕事量が増え、従って一人当たりの仕事量が極端に増えているのです。
日本企業の中には、残業を肯定する雰囲気がまだ根強く存在しているようです。前に、日本で連日の長時間残業を苦に自殺した電通の若い女性社員のことが話題になりました。世論は、自殺するまで追い込んだ電通の企業風土はけしからんと糾弾しています。この事件を契機に、一般的には過剰な残業を減らそうという気運が盛り上がってきました。しかし、電通で起こったことはまさに氷山の一角に過ぎず、過労死やうつ病になった人の数は実際には想像以上に多く、この長時間労働の問題はもっと大きく根深いと思います。これと同じ問題が海外の駐在員にも起こっています。こうした現実を外側からみて、駐在員の長時間労働を削減するために、何をどのように変えたらよいのかを考えるようになりました。
1.ほうれんそう
駐在員の方にもう一歩踏み込んで聞いてみると、とにかく日本の本社への報告が多いことが共通点でした。日本は昔から「ほうれんそう」というスローガンを大切にしてきたと思います。つまり「報告」、「連絡」、「相談」をキチンとせよ、ということです。その結果、海外の日系企業に共通していることは、「常に本社に対し報告し、相談し、指示を仰ぐこと」が当たり前になってしまっているようです。特にインターネットの飛躍的な発達で情報の交換が容易にできるようになり、その結果、この「ほうれんそう」が簡単にできるようになりました。本社に相談し指示を仰ぐことが簡単にできるようになった反面、そのための報告書や稟議書の作成を駐在員がすべて担う結果となっています。当然それらの作業は言葉の問題もあり米人スタッフに任せるわけには行かず、少なくなった駐在員で処理するしかなく、これが駐在員に大きな負担を強いることになっているのです。
2.駐在員の責任と権限
駐在員で来ている人たちが、彼らの責任と権限が明確でないまま派遣されていることが、本社を向いて仕事をする原因ではないかと思うようになりました。昔の駐在員と比較することは意味がないかも知れませんが、以前は有能と認められた人材が派遣され、それなりにその人の責任と判断で現地法人のマネージメントができたと思います。しかし近年では諸般の事情から必ずしもそうではなく、むしろ常に日本の本社の指示に従うように変わってきたのではないでしょうか。 これを解決するには、現地に派遣する人、特に社長として派遣する人の責任と権限を明確にすることだと思います。派遣された人の責任と権限が大きければ大きいほど、本社への「ほうれんそう」を軽減することができます。もし本社が派遣する人に責任と権限を委譲できないとすれば、それはその派遣社員を信頼していないことを意味し、本来派遣すべきでない人を派遣していると言えるでしょう。
3.一人当たりの生産性
さらなる残業軽減策は、一人当たりの生産性の改善です。日本のものづくりの生産性はどの国よりも優位にあり、目を見張るくらい世界の最先端を行っていると思います。しかし就業者一人当たりの生産性はというと、先進国の中で最低、世界の中でも20位前後と言われています。これがGDPにおいて世界第三位を誇る日本の現実です。この一人当たりの生産性を向上させることができればおのずと残業は減るでしょう。例えば、駐在員の長時間労働とほうれんそうが強く関連しているとするなら、その行き過ぎたほうれんそうを解決することが長時間労働を軽減し生産性の向上に結び付くと思うのです。一人当たりの生産性を向上できる方策をいち早く見出す企業こそ少子化、人口減に直面する日本の将来に生き残れる企業だと思います。
4.現地化の促進
日系企業は、他の国の企業に比べて概して現地化が苦手のように思います。日本の企業はこぞって、「海外進出=グローバリゼーション」、そして進出した先での「現地化=ローカリゼーション」を今もなお標榜してやみません。確かに日本の企業は、見事に大々的なグローバリゼーションを実現しました。皮肉にも日本国内での産業の空洞化を招いてでも海外進出を達成したのです。しかし、進出した海外での日系企業に注目すると、もう一つの大事な要素であるローカリゼーションにおいて、他国の企業に比べると極めて遅れていると言わざるを得ません。現地に任せきれない日本の本社、それゆえに本社を向いて仕事をする日本の駐在員、そして当然米人スタッフに任せることができないのですから、日本の駐在員は現地と本社向けのダブルの職責をこなすために長時間労働の底なし沼で喘ぐという構図になっています。常に日本の本社を向いていては米人スタッフが育つことは望めません。日本の企業は、グローバリゼーションに成功したように、ローカリゼーションも達成できれば、日本人駐在員の長時間労働を軽減できるでしょう。グローバリゼーションとローカリゼーションはいずれも達成すべき二大要素とするなら、今や二つを組み合わせて一つの新語として「グローカリゼーション」を目指して欲しいものです。この「グローカリゼーション」が達成されるとき、日本人駐在員の長時間労働の削減と米人スタッフの有効活用という二つの問題が大きく改善されるはずです。
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