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老親の資産を守る~日本の成年後見制度~〈前編〉
文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)
- 2019年6月19日
本コラムで2017年8月に、「日本に住む老親の介護と成年後見制度」というテーマで、日本に住む老親に介護が必要な状況になった場合の対処方法や成年後見制度について紹介しました。今回は、この成年後見制度についてもう少し詳しく紹介したいと思います。といいますのは、この制度は判断能力が十分でない人(認知症、精神障害にかかった人や知的障害者など)の財産管理を代わりに行う制度なのですが、今後この制度が必要となる状況がますます増える傾向にあるためです。具体的には、「認知症患者の増加」「お金に関するトラブルの増加」が挙げられます。
厚生労働省によれば、2025年には日本の認知症患者は約700万人、65歳以上の5人に1人が発症すると推計されています。高齢化により認知症のリスクも増えますが、平均寿命の伸びによって認知症患者数も増えることになります。
■財産、金銭トラブルの増加
認知症になると財産管理が十分に行えないため、本人しか知らない財産の喪失、親族の不適切な支出による揉めごとが発生する可能性があります。そのほか、悪質訪問販売や特殊詐欺などの被害に遭う可能性も増えます。また、高齢化で「人生100年時代」となりつつある今、日本では老後の資産形成のため、「貯蓄から投資へ」「賃貸住宅経営で定年後の安定収入」といった金融機関や不動産会社の広告宣伝、個別相談、セミナーが多く見受けられます。これ自体は違法でもなく問題は無いのですが、本人がその内容、リスクを十分に理解しないまま手を出してしまうと、後々トラブルになる可能性が高くなります。
そこで今回は「老後の資産を守る」という観点からこの制度を紹介し、必要となるケースや具体的な手続きなどを紹介します。日本に住む老親は元より、将来自分がそうなってしまった場合のことも含めて参考にしていただければと思います。なお、成年後見制度は日本の法律にしたがっており、被後見人(判断能力のない人)が日本国内に居住している場合に限られます(米国内では適用外です)。
1.種類
後見制度には法定後見制度と任意後見制度があります。
1)法定後見制度
すでに認知症になってしまった場合に、親族(4親等以内)や市区町村長等の申し立て(申請)により裁判所が後見人(親族以外を含む)を選定する方法で、支援内容も法律で決められています。親族が後見人になった場合でもお金の使い方は管理されていて、不必要な使用は認められていません。親族以外の人(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が選任された場合でも、親族は裁判所の決定を拒否することはできません。また判断能力の度合いにより、後見人のほか、保佐人、補助人が就任する場合があります。
2)任意後見制度
本人が健康なうちに、将来に備え後見人および支援内容を決める方法で、親族や信頼できる知人を選任することが可能です。最初のうち(本人が判断能力を有している間)は任意後見契約という契約を締結するだけとなり、本人の判断能力が低下してから後見監督人(任意後見人を指導する人)が裁判所により選任され、後見制度の効力が発生されます。
後見は本人が死亡すると終了します。その後は相続が発生し、法定相続や遺言執行による財産の処理が行われます。相続人がいない場合は(もちろん指定された専門家がしっかり調査します)国(国庫)へ引き渡されます。
2.後見人が行う仕事
後見人の仕事は主に、財産管理と身上監護です。成年後見制度は判断能力が低下または失った人を支援・保護する制度であり、支援・保護にあたっては、本人の意思を尊重しつつ本人の利益を守り、本人が安全に生活できるよう支援することが重要です。したがって財産管理については、自分が後見人になった場合は自分勝手に財産を使うことは元より、本人にとってもっとも望ましい(本人が希望する)形で財産を使うことが求められます。
1)財産管理の主な内容
・印鑑や預貯金通帳の保管、管理
・不動産の維持管理(税金の支払等を含む)
・保険や年金などの管理
・生活に必要な資金捻出のための動産、不動産の処分
2)身上監護の主な内容
身上監護は直接本人の世話をすることではなく、世話をするための法律行為を行うことです。
・医療に関する手続き(診療・入院などの契約、医療費の支払等)
・住居の確保(賃貸借契約、賃料の支払等)
・施設の入退所および処遇の監視等(施設契約、施設費支払等を含む)
・介護、生活維持に関すること(介護契約、生活保護申請、料金支払等)
いかがでしょうか? 次回の後編で手続き、費用、後見制度を利用するケースを紹介します。
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