2017年 移民法総括

文/デビッド・シンデル(Text by David Sindell)

今回は2017年を総括するような記事でまとめたいと思います。皆さんの多くが実感していることかと思いますが、移民法を取り扱う立場として、2017年はある意味、激動の1年といっても過言ではない年でした。

とりわけトランプ政権の誕生を受け、良い意味でも悪い意味でもさまざまに影響を受けた方が多くいらっしゃったことでしょう。細かくは数え切れないほどありますが、(1)大統領指令の発行による影響(“Buy American and Hire American” 2017年4月18日発行)、(2)非移民ビザ申請審査の厳格化(厳しい審査状況、質問状の多発、審査の長期化、延長申請も新規申請同様にすべての詳細な審査の実施等々)、(3)スポンサー企業への突然の監査訪問実施の増加(H-1B、L-1A、L-1Bビザなど)が、主な身近な事項として挙げられます。

具体的には特定の国籍者また関係者の特定のステイタスによるアメリカ入国禁止令の継続的発行(イラン、リビア、ソマリア、イエメンなど)、DACA (deferred Action for Childfood Arival – 若年の不法移民に対する国外強制退去の猶予処分)の廃止(約80万人の若者に影響)、H-1Bビザ申請に対する移民局による質問状の多発(H-1Bビザは高度技術者や高級ポジションのみに利用されるべきとの新方針による影響)、雇用ベースのアメリカ国内での永住権申請者に対する面接実施の復活などが記憶として新しいところです。

さらに、トランプ政権で掲げる移民法改革優先事項案として、主なものに(1)永住権申請方法の変更(家族ベースの永住権発行数を減らし、雇用ベースの永住権申請をポイント制へ変更)、(2)アメリカの全雇用主へのE-Verifyシステムの実施義務化およびその実施不履行に対する罰則の増加、(3)抽選によるアメリカ永住権発行の廃止、(4)不法滞在者への罰則の厳格化、(5)非移民ビザ審査、発行、履行に対する厳格化(H-1B、L-1A、L-1Bビザ等)などがあり、2018年以降、これらについて何らかの動きが出てくるものと思われます。

このような状況の中、ビザで人材を採用する企業、またビザを取得する本人などすべての方々に伝えたいこととして、今後は、柔軟なアメリカへの人材派遣計画(すでに採用している人材の雇用延長も含む)、専門家を通した最新のアメリカ移民法情報の入手、戦略的なビザ申請書類の作成(アメリカ移民局、アメリカ大使館・領事館向け)、ビザ認可後も政府による会社への突然の査察訪問に備えた十分な準備(申請書の内容と実務が一致していること。必要に応じて移民局への修正申請の必要あり)など、これまで以上に重要視し、実行していくべきでしょう。

具体的にはたとえば、もう数カ月(2018年4月1日)もすれば、新規のH-1B申請受付が開始されます。準備期間を含めると、すでに人事計画が進められていてもおかしくない時期でもあろうかと思います。これまでとは異なる姿勢での取り組みが必要となってきます。暗い話が前面に出てきましたが、今後、明るい話が出てくることも期待したいところです。

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デビッド・シンデル (David Sindell)

デビッド・シンデル (David Sindell)

ライタープロフィール

NY州およびNJ州弁護士資格。外国法事務弁護士(外弁)として東京第2弁護士会所属。アメリカ移民法弁護士協会所属。日本語、フランス語に堪能。

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