物流を制すものはビジネスを制すか?第7回
- 2017年12月28日
コンテナ主体の定期サービス船社「ONE」が発足
間もなく2017年が終わり、2018年が始まろうとしている。
物流業界にとっても、さまざまな出来事があった1年であった。印象に残った出来事としては、香港の大手海運会社であるOOCL(オリエント・オーバーシーズ・コンテナ・ライン)が中国の大手COSCO SHIPPING(コスコ・シッピング)に吸収合併されたことや、アメリカのコンテナの輸入取扱数量が年間で2000万TEUを超えることが明らかになったこと。また、アマゾンの自社配送網確立の一環で、アマゾン・フレックスがラスト1マイルデリバリーの歴史を変えつつあることなどが挙げられる。どれも業界にとっては大きなインパクトのあるニュースであった。
そのなかでも海運業界出身の私にとってもっとも印象に残った出来事が、ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)の発足である。ONEは世界のコンテナトレードでの生き残りをかけた施策として、邦船大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)のそれぞれのコンテナ部門が分離・独立・統合のうえ、発足したコンテナ主体の定期サービス船社である。これによりコンテナ輸送はONEに一本化されると同時に、存続する3社はバルク船やタンカー、自動車専用船などの不定期を中心とするサービスを提供することとなる。
日本のコンテナ事業、50年の軌跡
来年2018年は、日本郵船が最初のフルコンテナ船である「箱根丸」、商船三井が「あめりか丸」を太平洋航路に投入し、本格的にコンテナ事業の拡大を図った1968年からちょうど50周年の節目の年である。このコラムでは改めて、邦船各社が辿ってきた50年のコンテナビジネスの歴史を振り返ってみたい。
世界最初のコンテナ船がマルカム・マクリーンによって建造され、アメリカのニュージャージーからテキサスのヒューストンまで運航された1956年より遅れること10年、1966年に日本で海上コンテナ輸送体制が決定した。乱立気味であった邦船各社はその2年前の1964年に政府主導による海運集約を受け、邦船大手中核6社が発足しており、海上コンテナ輸送の中心的な役割を果たすことになる。ここで改めて中核6社を紹介しよう。
まずは日本郵船。三菱の創業者・岩崎弥太郎が設立した郵便汽船三菱会社が母体であり、三菱商事船舶部の後身である三菱海運との合併により、日本海運界で確たる地位を構築した。そのほか、日産汽船と日本油槽船が合併してできた昭和海運、大阪商船と三井物産船舶部が合併してできた大阪商船三井船舶、大同海運と日東商船が合併したジャパンライン、山下汽船と新日本汽船が合併した山下新日本汽船、そして、タンカー中心であった飯野海運を傘下にする1919年創業の川崎汽船。以上の6社である。
6社集約前の12社を含めて多くの海運企業が第二次世界大戦前に設立され、戦禍で大勢の乗員、船舶が犠牲となった。また、戦後復興の重要な基幹産業として、日本の経済発展に多大な功績を残してきた日本の中核もまた、この6社であった。
このように戦後も重要な役回りを演じてきた海運各社がなぜ、集約に至ったのか。それは1956年のスエズブーム後の長期海運不況により、日本の外航海運企業は経営基盤が脆弱になっていたため、集約により経営基盤の強化を目指したからである。
1964年に始まるこの中核6社体制は、1989年までのほぼ25年間続く。しかし世情は動き、1985年9月、プラザ合意により円高が進行。国際競争力が著しく喪失していくなか、体力のない海運企業が頓挫し始める。
企業の存続と安定を目指して、ジャパンラインと山下新日本汽船それぞれが定期船、不定期船を分離。コンテナ事業が中心となる定期船サービスについては、両者の合併により1988年7月に日本ライナーシステムが発足。また、不定期船サービスについては両者の不定期部門が合併し、当時としては世界最大規模の不定期会社であるナビックスラインが1989年に誕生した。
しかし定期船サービスは好転の兆しもなく、2年後の1991年、日本ライナーシステムは日本郵船に吸収され、社は消滅した。ナビックスラインも10年後の1999年に大阪商船三井船舶に吸収され、商船三井の不定期船部門として新しい体制のもとスタートした。
1990年前半に始まるバブル経済の崩壊でますます競争力を失っていく日本経済を反映し、1998年には昭和海運も日本郵船に吸収される。これで中核6社中、ジャパンライン、山下新日本汽船、昭和海運の3社が消滅した。21世紀を目前にした1999年、日本海運業界は、日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手3社体制になっている。
2017年、海運業界に新たな体制を確立
その後18年の年を重ね、2017年、その大手3社がそれぞれの定期部門であるコンテナ事業を分離し、1社に統合。ONEとして発足したのである。
それぞれ単独では輸送力で世界10位以内にも入っていなかったが、3社統合により保有輸送量は144万TEUで、世界第6位となる。また、2017年の輸送実績を見ると、アジア発米国への輸送数量については単純に3社の合計の累積シェアが15.90%で、2位のCMA CGMの14.76%を上回り堂々の第1位であった。
一国一船社時代のなかで、唯一の邦船コンテナサービス会社であるONE。7月の会社発足後も順調に業績を伸ばしている。オールジャパンでの健闘に期待したい。
唯一の不安要素は、かつてジャパンラインと山下新日本汽船が定期サービスとして日本ライナーシステムを発足も、3年ももたず他社に吸収されたという事例があることである。大手3社の後ろ盾があるとはいえ、経済の波を受けやすいコンテナ事業のなかで安定的に事業を継続させるのは決して簡単ではない。鍵となるのは、発展著しいアジアの諸地域でどのようにサービスの差別化を図り、日系らしいきめ細かなサービスの提供ができるかだ。
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