第65回 学校の環境とそこでの出会い

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

2017年秋、南カリフォルニア日系商工会議所の前会頭だったキティ・サンキーさんが、長年の地元コミュニティと日米交流における貢献が認められ、日本政府より受勲した。日系3世である彼女とは共通の知り合いがいたので、名前を聞いてはいたが、実際に会ったことはなかった。

受勲を機にキティさんの半生について聞きたいと取材を申し込み、私は彼女が引退するまで学校の教師だったことを初めて知った。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を卒業した後に、ロサンゼルス統一学区に所属する教師になり、最初の頃は裕福な白人が多いサンフェルナンドバレーの学校に勤務していたそうだ。そして転機が訪れた。1980年代に貧困層が多いサウスセントラル地区の小学校への転勤が命じられたのだ。在沖縄のアメリカ高等弁務官の語学副官まで務めた父親を持つ彼女にとって、その時に目にした環境と子どもたちの境遇はショッキングなものだったと振り返る。

「子どもたちは非常に悲惨な状況下に置かれていました。朝、学校に来た時にはお腹を空かせていたんです。朝食がポテトチップスだという子どももいました。子どもが育つには極めて劣悪な環境でした」

5年間、その小学校で教鞭を執ったことで、キティさんは教師として以外にも、彼らにできることはないかと模索するようになった。そして、自身が属していた団体を通じて、貧困層の子どもたちが将来大学に進学できるように、奨学金を集めるファンドレイザーを企画、実行した。それを機に、ますます積極的にコミュニティ活動に取り組んでいくようになったと語る。

異なる公立校の設備

彼女がサウスセントラルの学校で過ごしたのは、すでに30年も前の話だ。しかし、昔話に映らないのは、ここロサンゼルス近郊では、より良い学校環境を求めて他学区から越境してくる生徒が今でも少なくないからだ。日本の公立校の場合、どこであっても、学習内容や設備、子どもの家庭環境などはかなり似通ったものだと思うが、アメリカの公立校のそれらは学校ごとに大きく異なる。先日も、隣の市のトーランスの公立校にお嬢さんを通わせる知り合いに次のような話をされた。

「トーランス市内の4つの高校にはどこもプールがないんですよ。市の図書館に隣接した公営プールをトーランスの高校生たちは順番に使っているんです。レドンドユニオン(ニナの高校)には、立派なプールがあるのはもちろん、スポーツ設備が大学並みじゃないですか。うちの娘は水泳をやっているので、レドンドユニオンに越境させたかったけど、本人はじめ家族に反対されました。やっぱり友達と一緒に上の高校に進みたいと言われました」

確かにニナの高校の設備は素晴らしい。フットボールのグラウンドやレーストラック、テニスコート、プール、体育館は2館もある。充実した設備と強いスポーツのクラブに惹かれて越境してくる生徒は数多い。

しかし、ニナの場合は、部活に所属していないのでスポーツ施設には無関心だ。逆に「キャンパスが広すぎて、教室を移動するのに時間が足りない」と不平を漏らすほど。そして改めて考えてみると、ほかの環境と比較する術を持たない生徒本人にしてみれば、学校の環境が恵まれたものであってもそうでなくても、そこで経験した学生生活や人との出会いが充実したものだったかが重要なのかもしれない。そういう意味では、サウスセントラルの小学校でキティさんのような教師に出会えた子どもと親たちは、非常にラッキーだったといえるのではないだろうか。ちなみにキティさんがメンターとして名前を挙げたのは故・仲村権五郎さん。彼女にとって母方の祖父である仲村さんは、戦後、日系人の地位向上のためにロサンゼルスで活躍した人権派弁護士だった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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