海外教育Navi 第29回
〜治安の悪い地域に赴任した際、家庭ですべき危機管理〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.治安のよくない地域への赴任が決まりました。家庭ですべき危機管理について教えてください。

理解して慣れる

「外を歩く? それはなかったです。もっとも歩いて行ける範囲には何もなかったし。その国のありように添う気持ちが大事だと思います」とパキスタン駐在経験者が思い返して言います。

治安がよくない地域となれば、確かに夜のひとり歩きは考えられず、公共交通機関の利用を避け、運転手つきの自家用車に頼り、玄関には複数の鍵をつけるなど、面倒な対応が必要ですが、それをあるがままに受け入れれば、慣れも手伝って不都合も不安も軽減されるというメッセージに受け取れます。もっとも、治安が不安視される国ではリスクに敏感でいたのに、息抜きに出かけた旅行先で気を緩め、スリだの引ったくりに遭う事例が驚くほど報告されています。

住まいのチェック

とはいえ、駐在国の「現実」に慣れるには情報収集が欠かせません。まずは住まいに潜む危機のチェックです。私が訪ねたタイのコンドミニアムの廊下の窓は、床側から押し開けるスタイルでした。これでは廊下でふざけて転んだ子どもがそのまま開いた窓に滑り込みかねません。インドネシアの我がコンドミニアムのバスルームの窓も同様の下面押し開け式で、湯船でツルンと滑ったら、裸の身が空を舞うことになるところでした。無頓着な建てつけがないかをチェックし、不用意に近づかないよう子どもに教え込む必要があります。

シンガポールの知人は、全面ガラス張りのコンドミニアムを借りるときに窓ガラスの落下を危惧すると、「安全を証明する」と言ってオーナーは突然自分の体をロープで縛り、その片端を部屋の柱に縛りつけて窓に体当たりしたというから何とも。

豪華に見えても、湯船が床を破って階下に落下した、突然電子レンジが外れ落ちたなど冗談みたいな話も。何事も見た目で心を奪われない注意が必要です。

使用人とのトラブル

治安が問題になる地域では(ときに銃を装着した)ガードマンが常駐する住居エリアやコンドミニアムを選ぶことが少なくありません。敷地に入れば安全が担保されるはずが、ガードマンや管理人、使用人等々が犯罪の手引きをする事例も報告されているので気が抜けません。顔見知りであることが気の緩みを生む場合もあります。家を長期間留守にする場合には貴重品をしっかり管理し、むやみに不在予定が漏れないよう自衛が必要です。使用人とのトラブルはご法度です。恨みを買えば仕返しがあり、それが子どもに降りかかれば最悪です。人前で叱責したり、泥棒扱いして激しく追及してはなりません。プライドを傷つけずに上手に辞めてもらう知恵と工夫が必要です。

一方、エジプト駐在経験者は「雑踏の町なかで子どもを抱えて買い物をするときの身の守り方をメイドが実地で教えてくれた」と言います。信頼できるメイドが駐在国の指南役になり得るのも確かです。

歓迎せざる訪問者

まずは子どもだけで留守番させないこと。そして子どもには訪問者があっても不用意にドアを開けずドアチェーンの常用を心がけさせます。また親の留守中に外からかかる電話に、「パパとママは今日一日留守」などと告げさせてはなりません。

隣近所との信頼ある連携も忘れてはなりません。サウジアラビア駐在経験者は夫の出張中の夜遅い時間に、見知らぬ男に玄関ドアを激しく叩かれたことがあったそうです。何をわめいているのか聞き取れず、すぐ隣人に電話。飛び出した隣人が「お前は誰だ!」と大声で怒鳴り、事なきを得たそうです。

家の外での安全確保

日中、ときに外気温が50度にもなるアブダビ駐在経験者は、「子どもの外遊びなど望むべくもなく、ホテルのプールを遊び場とするなど、苦労が尽きなかった」と言います。外気温のみならず治安面での懸念で、子どもの外遊びが厳禁とされる国も少なからずあります。

子どもの日常的移動が子どもひとりの足で、という国は地球儀規模でいえば限られます。学校まではスクールバスか、親が同行する送迎か、現地運転手の運転での往復か。そのスクールバスも、悪路や運転の荒さが原因で椅子から落下しただの頭を窓にぶつけただの、事故がときどき起きています。

母親が交替でバスに同乗する「バス当番」は面倒で疲れますが、安全確保には欠かせません。また放課後、自家用運転手に任せて友達の家に送り届ける場合には、運転手にかならず家人の在宅を確認し、しっかり受け渡すよう厳しく約束させておきます。

「第30回 〜治安の悪い地域に赴任した際、家庭ですべき危機管理〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員
海外生活カウンセラー/海外邦人安全協会 理事/NPO国際人をめざす会副会長
福永 佳津子

上智大学卒。ニューヨーク在住6年、マンハッタンビルカレッジで修士号(MH)取得。ニューヨークWISH日本語電話相談室カウンセラー。帰国後は、海外生活カウンセラーとして講演・執筆が多数。著書・編書に『ある日海外赴任(ジャパンタイムズ)』『海外安全ガイド(KDDクリエイティブ)』『アジアで暮らすとき困らない本(ジャパンタイムズ)』など。2男2女の母。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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