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パナマ運河新閘門とその背景
- 2018年2月22日
1914年に開通したパナマ運河は、2014年に100周年を迎えました。中南米の地理的な中心地というだけでなく、世界の海上貿易の面においても太平洋と大西洋を結ぶ重要なポイントとなっています。そして、この通航量は全世界の海上貿易量の3%に値します。
パナマ運河は2016年に新閘門の建設が完成し、新たな局面を迎えることになりました。その背景には、運河の運航状況の活発化によって生じた問題や時代とともに変化する世界市場に対応して行こうとするパナマを見ることができます。
今回は、パナマ運河新閘門建設とその背景について紹介していきます。
通航船サイズを制限するパナマ運河
太平洋と大西洋を結ぶ航路として中南米の中心に位置するパナマ運河。年間約1万2000隻が全長約80kmにおよぶパナマ運河を通航しています。近年、運河通航船数はやや減少傾向にあります。しかし実際には、船幅が100フィート(30.5m)以上の船舶の通航量が増加しており、世界的に船舶の大型化が進んでいることが分かります。
旧閘門の通航可能な船の大きさは、全長294.1m、船幅32.3m、喫水(船が水に浮かんでいる時の、水面から船底までの深さ)12m。旧閘門を通過する船は、喫水の深さと喫水上の高さに加えて、閘門のサイズに制限がかかります。パナマ運河に並ぶ世界三大運河の一つ、スエズ運河は水門式を利用しているため、制限があるのは喫水の深さと高さのみ。一方、高低差を利用している閘門式のパナマ運河は、上記に加え閘門のサイズにも制限があるため、スエズ運河よりも小さな船しか通過することができないのです。
パナマ運河旧閘門を通過できる最大サイズの船は「パナマックス」と呼ばれています。この「パナマックス」は、世界中の海を制限なく通航できるサイズになっています。
拡張工事がもたらすパナマ運河の未来
世界中の船が利用可能なパナマ運河ですが、パナマ政府が拡張工事に踏み切った理由は以下のものが挙げられます。
1.通航時間の短縮と通航船の増加へ
2000年にアメリカからパナマに返還されて以降、パナマ運河の通航船の渋滞が問題化されてきました。24時間通航可能なパナマ運河は、通常なら8時間程度で太平洋から大西洋へ航行が可能ですが、新運河完成前は20時間ほどの通航時間を要していました。渋滞を解消し、スムーズな船の通過、通航船の増加へ繋げるため、2006年、パナマ運河庁によって計画案が作成されました。その後、国民投票によって可決され、パナマ運河拡張工事の一歩へと繋がったのです。
2. 液化天然ガスの成長見込み
パナマ運河拡張でもう一つ重要なのが、LNG(液化天然ガス)輸送船の影響です。次世代のハイブリッド燃料として注目されている液化天然ガスは、オーストラリアや北米、ロシア、東アフリカなどで生産能力が高まっています。特に北米では、現在稼働中のものと建設中のものを合わせると6基地、約7000万トン。2020年までにはすべてが稼働を開始する予定です。
さらに世界的に見ても、2020年までに操業開始を予定しているプロジェクトは1億トン以上。この液化天然ガスの生産は、オーストラリアと北米を中心に生産能力の増加が見込まれ、北米は2020年までにオーストラリア、カタールに続く世界第3位になるだろうと予想されています。特にアメリカからアジアへの輸出が多く、2021年までに年間550隻以上、または1日あたり1、2隻が新閘門を通過するといわれています。
旧閘門では小型のLNG船のみ通過可能でしたが、新閘門の完成により大型のLNG船も通過が可能になりました。輸送日数、コストの面から見てもその差は大きなものとなります。たとえばアメリカから日本へ輸送を行う場合、メキシコ湾から出発し、スエズ運河経由で31日、南アフリカ経由で34日かかるところ、パナマ運河の場合は20日で輸送が可能になります。
パナマ運河の通航コストをほかの航路と比較すると、100万バレルあたり0.2〜0.7ドル低価格で抑えることができるようになりました。パナマ運河庁は、運河通過後60日以内であれば通航料を減額する措置をLNG船に対して講じています。パナマ運河の拡張は、今後大幅にアジアへの輸出が見込まれるアメリカの液化天然ガスを後押ししているのです。
新閘門が開通した1カ月後の2016年7月に、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが用船したLNG船「Maran Gas Apollina」が通過しました。アメリカからアジア行きのLNG船の運河通過量は増加傾向にあり、2017年4月には週4隻のLNG船が新閘門を通過しています。
日本向けには、2016年12月にテキサス州サビーン海峡を出航した「Oak Spirit」がパナマ運河を通過。太平洋・津軽海峡を経由し、出航してから約1カ月後の2017年1月に中部電力上越火力発電所に到着しています。これが日本にとって初めての液化天然ガスの輸入となりました。
1914年の運河開通から104年。船舶の大型化、渋滞といった海運事情だけではなく、世界のエネルギー問題にもパナマ運河は対応してきました。特にLNG(液化天然ガス)は、今後世界の重要な資源になると見込まれており、大きなプロジェクトも動いています。パナマ運河は今後も、世界を結ぶ航路として不可欠な存在になることは明白です。なかでも重要なのは、アメリカと日本の経済を結ぶ航路になるだろうということ。資源の90%を輸入に頼っている日本を今後支えていくのは、遠い中米にあるパナマかもしれません。
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