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- 最終回 ワインの常識と非常識
このコラムを執筆してちょうど5年が経った。連載のコンセプトは「ワインの知識を楽しく、分かりやすく解説すること」。この期間に筆者が積み上げてきたワインの知識と、世界のワイン地域を視察して得た経験を、リアルタイムで読者の皆様に分かち合いたいと思ってきた。時に専門的になりがちな解説や、プロフェッショナル特有の辛辣な意見も、読者目線で!という心構えを忘れないようにと自戒しつつ。それがうまく伝わっただろうか。
ワインには、「非常識」な「常識」がまかり通っている。たとえば、ボルドーのワイン造り。シャトーに隣接する庭園からブドウを手摘みし、敷地内で醸造して、長い間静かに樽に寝かせるのがボルドーワインだと思い込んでいないか? 私たちが日常的に飲む価格帯のワインは、まったく別物だ。地元の農業組合が、機械で収穫したブドウをトラックに満載し、工場のような巨大施設に運び込んで、近代設備を駆使してワインを製造していく。こういう農業組合は、超高級なシャトーやシャンパーニュの下請け醸造も請け負っているのが実態だ。この記事を書いた時に、私の弟子からブーイングを食らった。「読者の夢が壊れてしまうかもしれない」と。だからあえて書いたのだと言った。批判のためではない。農産物から生鮮加工品を造るということがどれだけ大変で、いろいろな技術が必要とされているのかという現実だ。だからブドウやワイン造りに関わる人には、敬意を表したい。
ボージョレヌーボーに関する啓蒙記事は、ほぼ毎年11月に書いてきた。旬もの特有のひ弱な質ゆえに、年が明ける前には飲みきってくださいという声がけと、こんな常識を無視して春先まで店頭に置き、堂々と高値で売る店の非常識を批判もした。アメリカではなかったけれども。日本における「日本ワインブーム」については、現時点での質と店頭価格を国際規格で鑑み、忌憚のない意見を申し上げた。また、「ナチュラルワイン」というつかみどころのない商品に関しても、グローバルな視点から疑問を呈した記事も書いた。嬉しいことに、読者からの声は総じてポジティブで、筆者の意図が批判にはなく、啓蒙にあると理解していただけたのだと感謝した。
ワインは値段だけで選ぶべきではない。ラベルやブランドだけに頼っても危ない。赤ワインのほとんどは、寝かせてもおいしくならない。白ワインでもデカンタした方がおいしくなるものがある。という話題はすでにこの誌面で散々書いてきた。そして5年が経ち、さらにワインの理解が深まるにつれ、伝えたいことはまだまだ泉のように湧き上がってくる。
これからもいろいろなメディアを通して、情報と啓蒙の発信に努めたい。そして、時間ができたら「斉藤ゆきのワインの常識非常識」を本にまとめてみようと考えている。連載中、さまざまなご意見ご感想をお寄せくださった読者の方々に心からお礼を申し上げるとともに、今後は日本語のブログ(www.wisteriawine.com/blog)および頻繁にアップデートしているフェイスブックでの再会をお待ちしています。
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