日本は、フランス贔屓で有名な国だ。当然ワインといえば、フランスが唯一最高と信じる国粋主義者(?)や、フランスワインの知識だけで飯を食っている専門家もいる……らしい。その延長線上にあると思われるのが、日本のナチュラルワイン信奉者たちだ。そもそも、Natural Wine (日本ではフランス語風に、ヴァン ナチュール =Vin Natureと呼ばれる)には、法的定義がない。故に話す相手によって、ニュアンスが違うこともあり、悩ましい。どうやら「ぶどう造りに農薬を使わず、ワイン造りに亜硫酸を加えない」というのが、おおざっぱな定義らしい。勿論これでは絵に描いた餅で、もっとおおざっぱに括ると、オーガニックとバイオダイナミック農法も 自然派ワインとして括られるようだ。そしてフランス人はビオ(オーガニック)が好きだ。
畑に化学肥料を撒かないという無農薬農業は、理想的に思える。とはいえ、オーガニック農法も、バイオダイナミック農法でさえ、何らかの農薬は撒く。特に多いのが、銅をベースにしたボルドー液と呼ばれるスプレーで、偏重されている。効果は通常の農薬のように強くないので、雨が降る度に、あるいは効果が薄れる10日から2週間ごとに撒き続けなくてはならない。無農薬農家(オーガニックなど)は、通常農家の2倍散布するというのは、意外と知られていない。ベースが銅なので、長年続ける弊害は、認識されて久しい。高温多湿の土地(日本がその顕著な例)では、ぶどう農家はカビとの戦いで、効果の高い農薬を求める。オーガニック系の農薬では、効き目が薄い。逆に、カリフォルニアやニュージーランドのように、乾燥した温度の高い土地柄なら、オーガニック農法は比較的簡単に実現できる。
アメリカ人にとって、オーガニックワイン(日本では、フランス風にビオ=ビオデナミの略、と呼ぶ)なんて、全く魅力のないシロモノだ。ワインを造る醸造過程で、雑菌を抑える亜硫酸を加えなければ、「ダーティ」な、バイ菌に犯された「臭い」ワインになりかねない。亜硫酸は、酸化(ワインがお酢になること)を抑えるが、ナチュラルワインには、亜硫酸のプロテクションがないため、「酸っぱくて」「果実味が不在の」味のないワインが多い。
今回の日本出張では、ナチュラルワインを扱う優良な輸入業者を訪問した。何故、これほどまでに日本ではナチュラルワインが人気なのか、を知りたい、そしてそういうワインを扱う人たちの、理念も知りたいと思ったからだ。彼らも、上記のリスクに加え、亜硫酸のプロテクションのないワインを、フランスから日本まで輸入する大きなリスクは十分承知しているようだ。フランスでのぶどう造りや醸造現場をしっかりと認識し、リスク管理の共有が必要だと言う。それでもあえて、こういうワインを輸入するのは、自分たちがナチュラルワインに惚れ込んでいるからだという熱意が伝わってきた。彼らにしても、安易に造るダーティなワインを、ナチュラルワインとして売り、またそれを受け入れる日本の風潮を苦々しく思っているようだ。
では、どんなワインが良いナチュラルワインなのか? 今回、甲州ワインの造り手を再訪した際に、ワインメーカーの個人的なプロジェクトとして、亜硫酸を一切加えない正真正銘のナチュラルワインを振る舞ってもらった。これがなかなか良いワインであった。とはいえ、亜硫酸を加えたワインも試飲したが、そちらも良いワインなのだ。ではなぜ多大なリスクを冒して、ナチュラルワインを造るのかが、今ひとつ腑に落ちない。ワインに入れる亜硫酸は、ドライフルーツに散布する量の10分の1で、故に健康に害が及ぶとは考えづらい。しかも、ナチュラルワインは割高だ。私が日本のワインプロ向けに行った講習会で、この話題は盛り上がった。意外なことに、大多数がアンチナチュラルワイン派だった。
日本は、オーガニック野菜や、手作り感のある商品に対して、好感を持つ。それは良い。しかしながら、本当にナチュラル仕立ての質は、より良いものなのか? 値段に見合うだけの価値のあるものなのかを、検証しているとは言い難い。更にいえば、オーガニック、手作りの定義と理解が確立されていない。2万人という世界に例を見ない数のソムリエが存在する日本で、こんな基本的な検証を、きちんとできていないのは、いかがなものか。
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