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海外教育Navi 第5回
〜帰国後、編入学のための準備〜〈前編〉
記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)
- 2018年6月1日
海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。
Q.帰国後、帰国生のまったくいない学校に編入する予定です。どのような準備をしておけばよいでしょうか。
はじめに
「ご心配なく、お子さんの力を信じましょう。必要なのは『なるようになる』といったぐらいの前向きな気持ちです」。と言って終わりたいところですが、海外で暮らす子どもたちや保護者の皆さんが帰国を前にして不安な気持ちを抱いているのであれば、日本の学校への入学・編入学に少しでも安心して向き合ってもらえるよう、準備というよりも、こんなことを心がけたら、といったことを中心に記していきたいと思います。
帰国生の現状
現在、海外で暮らす子どもたちは約8万人。毎年1万人を超す子どもたちが出国し、帰国しています。近年、帰国生を積極的に受け入れる学校も増え、帰国生が全体の半数以上を占める私立学校もあります。しかしそういったところは一部の学校に限られていて、多くの帰国生が帰国生のいない、もしくは少ない学校に入っています。
滞在中に心がけたらよいこと
ひと口に帰国生といっても多種多様です。
・海外で通っていた学校(日本人学校、現地校、インターナショナルスクール等)
・日本での学校経験
・滞在期間
・滞在時の年齢
・日本語や日本文化の認知度
・性格
といった個人のさまざまな背景や要素によって、帰国後の学校に対する受け止め方も当然違ってきます。日本人学校に通っているお子さんは、日本人学校のカリキュラムや行事、学校文化といったものが日本の学校とほぼ同じなので、大きな違いを感じることは少ないでしょう。
日本の学校の子どもたちの多くは、外国の暮らしや文化などにとても興味を持っています。そういったことを尋ねられたときにうまく伝えられるよう、滞在中はいろんな人や自然、文化に触れ、その国で印象に残ったところをメモや写真、ビデオなどで残しておくとよいでしょう。
現地校やインターナショナルスクールに通っているお子さんなら、上記に加えて自分が在籍している学校や友達のことなどを紹介できるようにしておきましょう。それは、海外の学校のことをよく知らない子どもたちにとって、世界には多様な学校文化があることを知るよい機会になるだけでなく、帰国生本人への理解を深めるものとなるはずです。
日本の学校に初めて通うのなら、事前に日本の学校の様子や文化についての情報を得ておくこともよいでしょう。たとえば一般的な学校生活での掃除や給食、登下校のこと。学校によっては、集団登下校を行っているところもあります。また、運動会や文化祭等の年間行事、クラブ活動、委員会活動のことなどです。
こういったことを事前に体験するためには、日本の学校への体験入学がお勧めです。私が以前勤めていた小学校で、海外から一時帰国した子どもの体験入学を何度か引き受けたことがあります。その中で次のようなことがありました。
オランダの学校に在籍している男の子が体験入学で入ったクラスでのこと。その子は授業中、担任からの質問に対していつも体の前で小さく手を挙げるのです。シャイな子なのかと思っていたら、そうではありませんでした。あとで母親の話を聞いてそのわけを理解することができました。オランダでは手を体の前に高々と挙げる動作は、ナチスドイツの「ハイルヒットラー」を彷彿させるということで避けられていたのです。
日本で常識的なことも、ほかの国では非常識
このオランダからの体験入学生を通して、教師やクラスの子どもたちは素晴らしい学びをしました。また、彼も挙手といった何気ない動作でさえ国によって違う価値観があることに気づくことで、日本の学校のさまざまな習慣や文化を知ることができたのです。
お子さんが日本の学校を未体験なら、また海外での滞在が長期に及ぶのなら、体験入学は帰国後の入学・編入学に向けてよき機会となるはずです。夏休みなどで一時帰国の予定があれば、ぜひご検討ください。
ただし、体験入学に関する対応は市町村の教育委員会や学校によって違います。かならず事前に体験入学を希望する学校に連絡をとり、了解を得るようにしてください。
日本語の習得が不十分なままでの帰国となれば、受け入れ方法がどのような学校であれ、学習面でのつまずきが懸念されます。国語だけでなく、ほかの教科においても同様です。その不安を少しでも解消するために、滞在中から日本の教科学習、特に漢字練習や読み書き等の国語学習をしっかり行っておかなければなりません。さらに、本を読む習慣をつけておくとよいでしょう。
現地に補習授業校があれば、通学することもお勧めです。補習授業校では日本語を思う存分使えます。日本の体育的・文化的行事なども体験できます。何よりも現地校で自分と同じようにがんばっている仲間と悩みなどを共有できるよさがあります。もし補習授業校がなかったとしても、通信教育を利用したり日本の教科書やドリルを使ったりしながら自宅学習を怠らないようにしましょう。
帰国が決まったら、お子さんが少しずつ日本の学校に通うイメージを持てるようにしてあげてください。それも明るくよいイメージを。帰国先の地域や学校の情報を事前に収集し、家族団らんの場でお子さんの考えや気持ちなどを聞きながら話し合うのもよいでしょう。帰国に向けて、家族が一体となって前向きな気持ちで取り組むことが肝心だと思います。
→「第5回 〜帰国後、編入学のための準備〜〈後編〉」を読む。
教育相談員
菅原 光章(すがはら みつあき)
1979年から奈良県の公立小学校に勤務する。1983年より3年間、台北日本人学校へ赴任。帰国後は奈良市立小学校に勤務、教頭・校長を歴任する。また奈良県国際理解教育研究会の会長を務めた。退職後、奈良県教育振興会理事ならびに同志社国際学院初等部の教育サポーターを務める。2016年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。
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