出産、育児、子育てに関わる日本の社会保障について

文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)

毎回日本の年金や老後の帰国といった高齢者のための情報を主に紹介していますが、今回は出産、育児、子育てに関わる日本の社会保障のお話で、直接的には若い世代の人たち向けの内容です。現在(または今後)子育てをする駐在員やそのご家族、また、高齢の方でも将来一緒に帰国予定のお子様の出産、子育ての参考にしてください。

1.制度の概要
出産、育児については出産にかかる医療費やこどもにかかる医療費、養育費など、家計への負担は少なくありません。また働いている人であれば、その間就労できないため収入がなくなったり減額されたりします。そのため、公的社会保障により一定の給付(金銭、サービス)を受けることができます。

具体的には下記制度の下で受けることになります。

・医療保険(健康保険)
健康保険(サラリーマンが加入)、国民健康保険(自営業者等が加入)
・厚生年金保険
・雇用保険
・共済組合(公務員・学校職員が加入する健康保険、共済年金、雇用保険)
・児童手当法

2.給付内容(受けられるサービス)
では、実際の給付内容について説明します。

出産時

出産手当金(健康保険)
健康保険制度からの適用となるので、対象はサラリーマン、公務員・学校職員になります。国民健康保険の加入者には適用されていません。

被保険者が出産予定日以前42日から出産日後56日(計98日)に出産のため休業した場合、会社から給与を受けることができない、または減額された時に支給されます。支給額は1日当たり平均給与の3分の2(12か月間の標準報酬月額より算出)で、一部給与を支給されている場合はその額が3分の2より少なければ差額が支給されます。つまり、休業期間中給与が出ない場合にそれを補う形で支給されますので、家族が出産する場合は対象となりません。

出産育児一時金/家族出産育児一時金
健康保険、国民健康保険制度からの適用となります。被保険者および家族(被扶養者)が出産(ただし妊娠85日以上経過した場合のみ)した時に、その出産費用を補助する目的で支給されます。金額は40.4万円です(一部医療機関では42万円)。正常分娩だけでなく早産、死産、流産、人工妊娠中絶の場合も適用されます。

休業期間中の保険料免除
健康保険、厚生年金制度からの適用となるので、対象はサラリーマン、公務員・学校職員になります。医療保険、厚生年金のいずれも保険制度ですから、毎月保険料を支払わなければなりませんが、産前産後休業中に会社から給与が支給されない(または減額されている)場合は保険料を支払うことができません(または難しい)。

そこで休業中の救済措置として保険料の支払いが免除されます。保険料が免除されていても健康保険の医療給付を受けたり、将来の年金のための保険料を納付扱いとするなど受けられるサービスに変更はありません。

育児休業期間

雇用保険制度からの適用となるので、対象はサラリーマン、公務員・学校職員になります。こどもが1歳の誕生日(一部1歳2カ月)まで育児のため休業する場合、会社から給与を受けることができない時に休業開始時の賃金の67%(180日経過後は50%)が支給されます(ただし上限額あり)。支給の条件として被保険者期間(従業員であること)が休業開始前の2年間に12カ月以上あることとなります。なお、健康保険制度による出産手当金との併給はできません。

こどもにかかる医療費

健康保険、国民健康保険制度からの適用となります。日本では通常医療費の自己負担額は3割負担ですが、小学校就学前のこどもは2割負担となります(なお、70歳以降は2割負担。75歳以降後期高齢者医療制度では1割負担)。

また一部の市区町村では独自の医療費助成制度を適用しています。たとえば東京都千代田区ではこども医療費助成制度として、15歳に達した日以降最初の3月31日までの間にあるこどもが、医療機関で治療を受けた時の医療費の自己負担分を助成します(医療費が無料になります。なお、対象医療サービス内容、地域については要確認)。

児童手当

15歳に達する日以後最初の3月31日までの間にある児童(中学校修了前の児童)を養育する保護者に対して、一律に支給されます。月を単位に支給され、児童一人につき月額1万円(3歳未満の子は1万5千円)です。一定所得以上の世帯は月額5千円となります。また父母の離婚などにより、父または母の一方からしか養育を受けられない一人親家庭の児童には、一人当たり月額4~5万円の児童扶養手当が支給されます。

高校授業料無償化

2010年より公立高校の授業料が無償化されています。また私立高校についても現在政府が将来の無償化について検討を進めており、数年以内に実現される可能性があります。

いかがでしょうか? 少子化が深刻な問題となっているなか、このように出産や子育てしやすい環境を国や地方自治体が中心になって整備しています。

なお、上記内容については2018年8月時点のものですが、今後変更となる可能性があります。詳しい内容や手続きについては各市町村役場、健康保険協会、健康保険組合、共済組合、日本年金機構へお問い合わせください。

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、成年後見など日本在住の老親のサポート)を行う。

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