日本帰国時の手続き~米国年金について

文&写真/蓑田透(Text and photo by Toru Minoda)

今後、日本への帰国を検討されている人にとっては、米国側と日本側、両国の必要手続きについて頭を悩ませているかもしれませんね。今回はそのうちの一つである米国年金(Social Security)に関する手続きについてのお話です。本コラムで2017年6月3日に掲載した記事「日本帰国時の米国年金の取扱い」で概要を紹介していますが、もう少し具体的な内容になります。

1.米国年金受給前のケース

もしまだ現役で働いてSocial Security Taxを払い続けている、または引退はしているが米国年金を受給していない場合、これから(将来的に)年金受給のための請求手続きが発生します。この手続きは、日本へ帰国してからでも比較的簡単に行えます。日本は米国と社会保障協定を締結していて、その国の年金事務所で相手国の年金請求手続きが行えるような制度になっています。

日本では全国に日本年金機構の年金事務所があるので、最寄りの年金事務所へ行けば米国年金の請求手続きを行えます。また米国内の年金事務所で手続きを行う場合、窓口担当者とは英語での会話となりますが、日本の年金事務所では日本語でのやりとりになりますので便利です。

ただ手続きといっても、年金事務所では必要書類を受け付けるだけで、その後書類は米国大使館へ送られ、審査手続きそのものは米国大使館で行われます(それでも書類に不備があれば、年金事務所で日本語で説明してくれますのでとても助かります)。

提出書類のうち、申請書(フォーム)は年金事務所にあります(インターネット経由でダウンロードも可)。そのほか、家族がいれば戸籍謄本(米国籍の場合は除籍謄本など)や米国年金に関する書類(Social Security cardやステートメントなど)が必要となります。書類提出後、必要に応じて米国大使館から追加の書類提出や、電話または訪問でのインタビュー(面談)の要請があります。このやりとりも日本語なので便利です。

提出書類については個別のケース(国籍、家族構成など)によって変わりますので、あらかじめ日本年金機構へ電話で確認すると良いでしょう。

2.年金受給中のケース

すでに米国で年金(Social Security Benefit)を受給中の場合は、必要に応じて住所、年金受取用金融機関の口座の変更手続きを行います。「必要に応じて」と書きましたが、米国側に引き続き住居や金融機関の口座があれば、変更する必要はありません。ただ、年金事務所(Social Security Administration=SSA)からの郵送書類や年金の口座からの引き出しを考えれば、日本の住所や日本の銀行口座へ変更した方が良いでしょう。

(1)帰国後は米国大使館へ電話
変更手続きは、日本へ帰国する前に米国のSSAの事務所で行うこともできますし、帰国後に日本の米国大使館で手続きすることもできます。請求手続きと違い、日本の年金事務所では行えません。

日本帰国後の具体的な手続き方法ですが、まずは米国大使館へ電話します。代表番号へ電話し、電話オペレータに米国年金の住所、銀行口座変更手続きを希望する旨を伝えると、担当部署へつないでくれます。担当者の電話対応は平日の午前中のみで、話し中でつながらないことが多く、時期によっては何度も電話しなければならない場合があります。

その後、米国大使館より変更届けのための書類(Form SSA-21)が郵送されますので、必要事項を記入して返送します。書類は英語の文面で、米国籍か永住権者(グリーンカード保有者)かによって回答内容が異なるなど、やや専門的で分かりづらいかもしれません。

(2)米国銀行口座の解約は手続きが完了してから
変更手続きは書類提出後、数カ月かかります。その間に日本へ帰国したからといって、これまで年金受取用に使っていた米国の銀行口座を解約してしまうと、変更手続き中の年金が銀行に振り込まれず(口座がないので当然ですが)、SSAへ戻されてしまいます。したがって、これまでの年金受取用の米国の銀行口座は、日本の銀行口座への変更手続きが完了し、実際に日本の銀行への入金を確認してから解約することをおすすめします。

万が一日本の銀行口座への変更手続きが完了する前に米国の銀行口座を解約して、年金の振り込みができなかった場合、その分の年金はあとで申請すれば取り戻せますが、一定期間を過ぎてしまった分は取り戻せない場合があります。

(3)日本の年金受給による米国年金の減額
米国大使館の担当者と電話で話す際に、日本の年金を受給しているかどうか聞かれる場合があります。もしくは上記Form SSA-21のほかに、日本の年金に関する質問書が送られてきます。受給していると回答すると、一定の条件を満たす該当者については米国年金が減額されます。これは、外国年金を受給すると米国年金が一定額減額される制度です。

該当条件や減額幅についてはここでは割愛致しますが(注1)、米国居住中にこの減額の適用を受けずに米国年金を受給している人もいます(日本の年金受給の有無は自己申告制なので、よく分からずに米国年金を請求した場合、日本の年金を受給しているのに米国年金を減額されていない場合があります)。

そうした人が、日本帰国時の変更手続きで日本の年金を受給していると申告すると米国年金が減額されますが、すでに受給した過去の分もさかのぼって減額の対象となるため、過去の減額分は将来の年金額から一定分を相殺する形でさらに減額されます。なお、今のところ過去に減額すべき期間が見つかった場合、その減額分だけを支払えばよく、税金のようなペナルティはありません(将来的には分かりません)。

以上となりますが、手続きそのものは帰国してからでも行えますので、手続きについて分からないことがあれば、帰国後に日本の年金事務所や米国大使館へ電話して質問してください。

(注1)詳細については下記SSAのウェブサイトをご参照ください。
https://www.ssa.gov/planners/retire/wep.html

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、成年後見など日本在住の老親のサポート)を行う。

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