海外教育Navi 第22回
〜海外在住中に家庭内でできる母語教育〜〈後編〉

記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.幼児を連れて海外に行きます。日系の幼稚園はありません。家庭内でできる母語教育について教えてください。

前回のコラムでは、お子さんが日本語に触れる方法について、いくつかご紹介しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。

日本人の先生の習い事で、
あいさつや敬語を教える

お子さんに習い事をさせる機会があれば、日本人の先生を探してみてはいかがでしょうか。我が家の子どもたちは、ピアノもバイオリンも日本人の先生に習いました。親子の会話では使わないことばを使う場面が多くなりますし、あいさつや敬語を教えられるいい機会にもなります。

以前、私のかかわる教室に何度注意されても先生のことを「おまえ」と呼ぶ4歳の子がいました。あるとき、先生の怒りがとうとう爆発してたいへんなことになったことがありました。もちろん先生は、その子に「YOU」=「おまえ」ではないことを冷静に教えてあげるべきだったのですが、彼が家族以外の人と触れ合う機会がもっとあったらそんなことにはならなかったでしょう。お母さんやお兄さんたちが使っている「おまえ」という呼び方は、先生に対してはふさわしくないと知っていれば、起きなかった事件だと思います。

子どもたちには、幼少のころからきれいな日本語や丁寧なことば遣いを教えてあげたいものです。ぜひ、保護者の皆さんには、お子さんへのことば遣いを考えて、よい見本となり、美しい日本語を継承していただきたいと思います。

「幼稚園ごっこ」で
ことばだけでなく人間関係も学ぶ

私の携わるグループにはいまでは250人近くのお子さんが在籍していますが、はじめは数家族が我が家に集まって始めた「幼稚園ごっこ」でした。

お住まいになる地域に幼児のいるご家族を見つけることができれば、曜日や時間を決めて定期的に「お集まり」を計画してはいかがでしょうか。幼児教育に携わったことがある人がいれば、なおよしですが、いなくてもお母さんやお父さんたちでできることはたくさんあります。

あいさつから始まりあいさつで終わる。自由遊びのほかに季節行事を体験させてあげたり、読み聞かせや歌や手遊びを行ったり等、できることはたくさんあります。さらには保護者同士の情報交換もできますし、ことばの習得だけでなく、子ども同士や家族以外の大人とのかかわりを通して人間関係を学び社会性を養うよい機会となります。

このような「お集まり」をする際、大事なことはルールを決めることです。「お集まり」をするご家庭に迷惑にならないように、時間を守る、あと片づけをしっかりとする、そしてお菓子を食べさせながら子どもを遊ばせることをしない等、保護者同士が取り決めをして気持ちよく「お集まり」ができるようにしたいものです。

日本国内でしたら、テレビをつければ日本語、そして外に出れば周りから人の話し声、商店街や駅のアナウンス等が聞こえ、街や電車の中でも広告の字が目に入ってくるなど、あたりまえに日本語があります。ところが海外では、保護者があえて子どもに与えてあげないと日本語に接する機会は極端に少なくなってしまいます。

ですから、駐在先の新しい環境のなかで母語教育のために何ができるか、ここに挙げた例も参考にぜひ考えてみてください。日常のいろいろな場面を通して、お子さんが楽しく日本語を学ぶ機会を、たくさん見つけてあげることができると思います。

今回の相談員
チューリップロンドン英徳学園代表
大貫 久子

東京都杉並区出身。多彩な人生経験を経て1995年、再婚を機に渡英。子どもたちが日本語で遊び学ぶことのできる場所、「Tulip London英徳学園」を多くの人たちとつくり15年。3人の子育てはすでに終了し、現在は老後の生活設計を考えることと仕事を楽しみとする。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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