前回、このコラムの原稿を入稿した直後に、全米で史上最悪といわれた大学入試スキャンダルが大々的に報道された。ドラマ『フルハウス』で知られる人気女優のロリ・ロックリンが、経験したことがない部活推薦枠で二人の娘を南カリフォルニア大学に入学させ、女優のフェリシティ・ハフマンもまた、大学統一試験SATの試験官に賄賂を渡すことで娘の入学試験のスコアを上乗せして、名門大学の合格を不正に勝ち取ったという例の事件だ。
印象的だったのは、ハフマンはすぐに罪を認めて謝罪した一方で、ロックリンは4月末の時点では「どんな母親でも子どものためにやったはず」と開き直り、罪を認めていないということだ。さらに、彼女は出演していた『フラーハウス』(『フルハウス』の新しいシリーズ)からは解雇されたものの、共演者たちは「苦しい時にこそ家族は一緒に過ごすべき。ベッキー(ロックリンのドラマでの役名)をサポートする」と次々と応援コメントを出した。
賄賂を通じてエリート大学に子どもを入れた不正は「罪」ではないのか? そのことを知り合いと話していたら、「だって私立大学だってビジネスなんだから。お金を出してくれる人を優先的に入れるのはある意味、メイクセンスではないの?」と言われた。そうなのか? そして思い出した。私立大学には「寄付入学枠」なるものがあることを。
英語では“Development Case”と呼ぶ。なぜ、デベロップメント(開発)かというと、説その1は「その学生の親が寄付したお金で、新しい設備をはじめとする大学のキャンパスが開発できるから」。説その2は「入学時点ではその学生の学力をまだ開発する余地があるから」だそうだ。説その2などはジョークのようだが、学生の能力を開発する場が大学なのだから納得できないこともない。
アメリカの大学の合格の要件は日本よりはるかに多い。前述の統一試験(SATまたはACT)のスコア、高校での成績、スポーツやボランティアなどの活動実績、自己PRの小論文、推薦状など。基本は試験のスコアと高校の成績のはずだが、デベロップメントケースが適用されるのは、「スコアと成績は合格ライン近くに迫っている」ことらしい。つまり、合格ラインのはるか下は最初から問題外なのである。
合法か、違法か?
では一体、いくらの寄付金を出せば合格できるのか? もちろん、どの大学もそれを公式には発表するはずもないが、あるリサーチャーが発表した数字では「カリフォルニア州の某名門私立大学では50万ドル以上」とのこと。これは学費とは別の寄付金のみの額である。
そしてなぜ、大学はそのような寄付金を受け取ることで学生を優先的に入学させるか? 答えはシンプル、「寄付金の提供が、その学生が大学にもたらす大きな価値だから」だ。さらに、このような寄付金を通じて名門大学への合格方法を指南する入学コンサルタントが実際に存在する。今回のスキャンダルではウィリアム・シンガーという自称コンサルタントがその悪質な手口で逮捕されたが、合法的にアドバイスを提供する人たちは今もまだビジネスを運営している。
しかし、合格ラインに迫っている学生が大学のために使われるお金を寄付することで優遇されることと、嘘をつき、さらに関係者に賄賂を渡すことで裏口から入学することとは別の問題だ。だから、ロックリンの開き直りは彼女がセレブな扱いに慣れすぎて勘違いしているように映るし、勉強したくもないのに親の見栄のために大学に送り込まれた娘たちは、今回のスキャンダルの発覚で迷惑を被った側といえるだろう。何より、本来合格できていたはずの学生の席を奪った、不正入学関係者の罪は大きい。いずれにしても、見栄こそが人間が抱える最大のモンスターではないだろうか。
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