【ニューヨーク不動産最前線】
NY、賃貸に関する法律を改正

6月14日付でニューヨーク州の賃貸に関する法律が大きく変わりました。いくつもの改正ポイントがあるのですが、なかでもNYCの家主に大きなインパクトを与えたのは、「家主はテナントに対して敷金を最高で家賃の1カ月分までしか預かることができなくなった」という点です。

これだけでは大したことがないように聞こえますが、ニューヨーク市(特にマンハッタン)の家主にとっては重大事項です。ニューヨーク州のほかの町はいざ知らず、NYCは世界最大のインターナショナルシティです。外国人で成り立っているといっても過言ではありません。
海外からのビジネスマンや海外からの留学生で溢れています。国連や各国の領事館もあり、それら海外公務員もうじゃうじゃいます。

赴任であれ留学であれ、以前にほかの米国の都市で働いていた経験がある人は別としても、大半が初めての米国居住者となるケースが多く、当然この国でのクレジットヒストリーやソーシャルセキュリティ番号もありません。そのような人が住居探しをする場合には、家主はクレジットヒストリーがない分敷金を余分に預かる、もしくは家賃を半年から1年分前払いをするといったような代替案を提示し、クレジットヒストリーのない外国人にも間口が開かれていたのです。

この法律が施行されたことにより、家主は物件を貸したくても米国での新米居住者には貸せなくなってしまいました。なぜなら、ビルのボードが規定する入居審査をパスできないからです。入居審査をパスするためには、身分証明書(パスポート、就労ビザ)のほかに米国での収入証明書、銀行残高証明書、過去のタックスリターンの証明書等が必要です。賃貸期間中の家賃滞納を避けるために、テナント候補者の財政状況を把握する必要があるからです。

加えて、過去の支払い延滞履歴や犯罪歴等を調べる身元調査(クレジットチェック)を行います。今まで、提出不可能な書類とクレジットチェックが行えないことによるリスクをカバーするために、余分に保証金を預かったり家賃を1年分前払いしたりしていたものが、できなくなったのです。書類が出せないと物件への申し込みもできません。テナント保護という名目で適用された法律ですが、実質的にはテナントが借りたくても抜け道が無いという状況を生み出しただけで、逆効果です。

マーケットに与える影響は大きく、外国人の多いNYCは大きな打撃を受けると思います。家主も物件が貸せなければ、ファイナンシャル設計が変わってきます。物件を売らざるを得なくなるかもしれません。すると今度はマーケットに売り物件が溢れて、セールのマーケットにも影響が出ます。買い手側も賃貸目的では購入できなくなるため、すでに停滞気味のセールマーケットはますます買い手が減って悪くなるという悪循環です。

この法律は今のところ、部屋の保有数や規模に関わらず、大規模企業オーナーにもコンドミニアムの部屋を一部屋しか所有していない個人オーナーにも適用されます。一応、レントスタビライズ(シティから不動産税の優遇措置を受けており、家賃の値上げ幅上限が規定されているビル)にのみ適用されるとなっていますが、市のレンタル専用ビルの半数がレントスタビライズとなっています。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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