Vol.13 建築デザインの先駆者
フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群
− AZ・CA・IL・NY・PA・WI州 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito) 写真提供/Frank Lloyd Wright Foundation

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2019年7月現在、167カ国で1121件(文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件)が登録されている。

小川を漂うような感覚をもたらす落水荘

2019年7月、アメリカの新たな世界文化遺産登録が決定した。20世紀を代表する米建築家フランク・ロイド・ライトが手がけた建築8作品だ。1959年、91歳の生涯を終えるまでに、彼は1000以上の作品を設計した。

彼の作品の基本概念となっているのが「有機的建築」。間仕切りのないオープンプランや外と内の境界が曖昧な空間作り、スチール材やコンクリートといった斬新な素材の活用など、自然から学び、環境との調和を目的とした概念だ。住居建築の革新的な手法が顕著に見られ、近代建築の発展に多大な影響を与えたとして高く評価された。

時代を先取りする斬新な建築物群

グッゲンハイム美術館を上から見下ろす ©︎Solomon R. Guggenheim Foundation

有機的建築の最高傑作といわれているのが、ペンシルベニア州ミル・ランにある落水荘(Fallingwater)。1939年に完成したこの住居建築は、自然の岩を使い、森と滝、川がみごとに調和した作品だ。突き出るように重なるテラスは岩の形になじむデザイン。ガラス窓を多く取り入れ、オープンな空間にしている。

ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館(Solomon R. Guggenheim Museum)は16年かけて設計・建設され、1959年に完成した晩年の作品。螺旋状に巻いた白いリボンのようなデザインが上に向かって広がりを見せ、空から自然の光を贅沢に取り入れる。最上階から見下ろす内装は必見だ。

イリノイ州オークパークには、教会建築ユニティ・テンプル(Unity Temple)がある。コンクリート材を使った建築は当時異例で、立方体のような形も教会としては革新的だった。同州シカゴにあるロビー邸(Robie House)は、住居建築。アメリカの大草原になじむよう考案された「プレイリー様式」の代表作とされている。長方形を組み合わせ、水平を強調した外観が特徴的だ。

カリフォルニア州ロサンゼルスにある住居建築ホリホック・ハウス(Hollyhock House)は、マヤやアステカ、アジア、エジプトなどさまざまな影響を受けているといわれている。

そのほか、ウィスコンシン州にはライトの邸宅タリアセン(Taliesin)が、アリゾナ州には別邸タリアセン・ウェスト(Taliesin West)がある。これらは彼の自邸であるとともに、教育施設や工房、共同住宅などを併設しており、今も建築学校としてライトの意思を引き継いでいる。また、ウィスコンシン州のジェイコブス邸(Herbert Jacobs House)は、低価格の小規模な「ユーソニアン住宅」の最初の作品として知られる。

自然になじむ素材を使ったジェイコブス邸 ©︎David Heald

ライトの作品群は、内部公開やツアーを実施している所も多い。ユニークなデザインは建築好きだけでなく、誰でも楽しめるはず。まずは家の近くから、ライトの作品めぐりを始めてはいかが?

遺産プロフィール
フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群
The 20th-Century Architecture of Frank Lloyd Wright

登録年 2019年
遺産種別 世界文化遺産
https://franklloydwright.org

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

この著者の最新の記事

関連記事

資格の学校TAC
アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2023年2月14日

    愛するアメリカ
    サンフランシスコの町並み 一年中温暖なカリフォルニアだが、冬は雨が降る。以前は1年間でたった...
  2. キルトを縫い合わせたような美しい田園風景が広がるグラン・プレ カナダの東部ノヴァスコシア州に...
  3. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  4. 九州より広いウッド・バッファロー国立公園には、森と湿地がどこまでも続いている ©Parc nati...
  5. 2022年12月9日

    住みたい国
    熊本県八代市の「くまモンポート八代」で 8月の終わりから9月中頃にかけて、私とニナは日本に飛...
  6. 2022年12月7日

    日常の些事
    冬の落ち葉 年齢を重ねると、だんだんと感動が薄くなるとはよくいわれる。ほとんどのことは過去に...
  7. 2022年12月6日

    美酒と器
    酒器の種類 酒器にはさまざまな素材、形のものが存在する。適切な器を選ばないとお酒本来...
  8. 契約上のトラブル 広範囲にわたる法律問題を扱う弊社にはさまざまなお問い合わせがありま...
ページ上部へ戻る