アプリの自動課金、なぜもっと分かりやすいデザインにならない?
- 2019年10月14日
「なぜ」このツール、この方法、このタイミング?など、オンラインビジネスやデザインの世界を一歩踏み込んで考えます。
あるレポートによると、平均的なモバイルユーザーは1カ月に約40ものアプリにアクセスしているそうで、各ユーザーにとっての必須アプリの数も増加傾向にあるそうです。私自身、何かと新しいアプリをダウンロードしては、そのうちのいくつかがなくてはならない存在になっています。
とはいえ、そんな神アプリに出会えるのは稀な話で、“数カ月前には重宝したけど生活スタイルやほかのサービスを見つけてまったく利用しなくなった”“ダウンロードしたけど使い勝手が悪すぎて利用したくなくなった”“ダウンロードしたことすら忘れた”などなど、ダウンロードしたものの、結局利用しないアプリの数の方が多いというのが一般的かと思います。
ところが、ちょっと使ってみようかなと気軽にダウンロードしてみたら実は自動的に継続課金に申し込んでいた、という経験を持つのは私だけではないようで、自動課金に関する訴訟は絶えません。私は今でこそダウンロードに慎重になりましたが、身に覚えのない請求やその解約の複雑さ、そしてその不親切さに目を丸くしたこともありました。
数年前、あるMeditationアプリを試してみようと思い、1week free trialの謳い文句に誘発され、細かい注意書きを読まずにダウンロードしました。結局しっくりこなくて、ダウンロードした時に試した以外そのアプリを開くことはありませんでした。
数週間後、たまたまクレジットカードの明細を見ていたら身に覚えのない59.99ドルの支払いがあり、何だっけ?と思ってその日付のメールを確認してみると、例のMeditationアプリでした。引き落とされているのは確かにダウンロードした日の1週間後。チャージされていることすらしばらく気がつかず、そのアプリの存在すら忘れかけていた時だったので、その請求の正体がはっきりするのに時間がかりました。
iTunes経由で課金されるのでクレジットカード情報を入れる覚悟もいらず、本当にサクッと「ダウンロード」ボタンをポチッと押すだけで、いつの間にか60ドルの支払い(そしてエンドレスのオートリニュー)を約束していたとは寝耳に水の思いでした。そのアプリを開き、解約を試みようにもなかなかたどり着けず、googleを頼りに検索し、同じような経験を持つユーザーの親切な解説に救われました。
解約するにはアプリ上ではなく、iPhoneのSettings > iTunes & App Storeを開き、一番上のApple IDという部分をタップ。メニューウィンドウが開くのでView Apple IDを選択し、その中のSubscriptionsを開きActiveのリストから解約したいアプリを選択し、Cancel Subscriptionを押すというものでした。今でこそ、これらの経験もあり、この方法が簡単なものに思えますが、とても直感で分かる流れではありません。
ほぼ無意識に近いほど簡単に申し込みはできるのに、解約の仕方はユーザーが意識的に調べなければ分からないという不親切な煩雑さは、なるべく多くの人が支払い、なるべく多くの人を留めておくようにしたいという提供側の利己的な戦略であり、UXやDesign thinkingなどといったユーザーを中心に考えるという思考が注目されている現在において、改善されるべき点だと思います。
まず、申し込み時には、自動更新の継続申し込み(1カ月、1年、無期限)以外のオプションがあるべきで、むしろ自動更新されないオプションがデフォルトになっていて欲しいところです。「1カ月試してみたい」というユーザーの意思を、申し込み時にいきなり毎月支払うという約束に変えるのは勝手すぎます。
提供側の与えるオプションは支払いのタイミングだけであり、結果的には申し込み時に永久支払い約束(複雑な解約をしない限り)のオプションしかありません。そのオプションしかないことに同意したとしても、ユーザーの気が変わることは当然あるわけなので、次回の支払い時の前には「自動更新されますが、もし解約したい場合はこちらから可能です」といったお知らせがあるべきです。
このアプリの支払いシステムを実際の社会に置き換えてみると、こんな感じのストーリーになります。
デパートに買い物に行き、好みの服を見つけたので眺めていると「良かったら試してみませんか」と声をかけられた。試着室に案内され、試着室を開けるのにはこのスクリーンのボタンを押してくださいと言われたので、言われるままにそのボタンを押した。そのボタンの上には何やら小さい文字が大量に書かれていたけど、やたらスクロールしないと全部見られないしよく分からないし、急いでいたのでボタンを押した。試してみて、やっぱり着ないかなと思い、その店を後にする。
3週間後、試着した服に対して60ドル支払っていたことに気がつく。しかもこれは毎年チャージされるらしい。お店に戻ってキャンセルしたいと思ってもお店に店員さんはおらず、何時間も店内を廻って試行錯誤するが結局キャンセルできない。結局周りの人に同じような経験をした人がいないか聞いてみると、どうやらキャンセルするには別の階のカスタマーセンターに行くらしい。カスタマーセンターでようやくキャンセルを実行。1年後の60ドルの支払いは回避されたものの、試着の60ドルに関しては諦める。
このような流れがアプリ上では今でも横行していることに違和感を覚えます。
自動更新に関して納得いかないユーザーは多く、これまで多くの訴訟がありました。なかでも、指定の期間内に自動更新でチャージされた約4億人のユーザーに対して3ドルの支払い、弁護士費用など含め合計1650万ドル(約18億円)をApple側が支払うことで和解したSiciliano v. Apple Inc.ケースは、特に注目を浴びました。
そのほかにもSpotify、Tinder、Care.com、eHarmonyなど、多くの企業に対して訴訟が起こされているにも関わらず、いまだにSubscriptionに対して不親切なユーザーインターフェイスがまかり通っているのは、それらの訴訟で敗訴して支払う金額を考慮しても、自動更新で収益を上げるほうが最終的に企業にとって利益が上がるためだと考えられています。
実際にAppleの訴訟ケースを例にしても、1650万ドルの支払いは、1日に1億2700万ドルの利益を上げるAppleからしたら、1日の利益のわずか13%です。
チャージされる金額は訴訟を起こすほどの金額ではないために、まあいいかと諦めるユーザーがほとんどなので、それらの累計が企業に多くの利益をもたらしています。
このような倫理的な側面を無視しているようなビジネス戦略に対し、ユーザーがTech Giant相手にできることは限られてしまうので、結局はユーザーにとって欲しいツールを提供しているビジネス側が利を生むのは当然なのでしょうか。
もっとも、UX designに慎重になるべき箇所がユーザー中心に考慮されていないことに、なんとも歯痒い思いです。
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