海外教育Navi 第41回
〜帰国後における子どもの教育環境の違い〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.海外では褒められていたことが、日本で同じことをすると注意されると子どもがよく言います。どう対応したらいいのでしょうか。

二つの国のかけ橋に!

滞在国や滞在期間、帰国時の子どもの学年や性格等さまざまな違いはあっても、帰国後の学校生活で戸惑いを感じる場面はどの子にもあります。特に、海外の学校では褒められていたことが日本の学校で同じことをすると注意されたり批判されたりしたときには大きな戸惑いを覚えます。

親御さんとしては、日本と滞在していた国の「学校文化」の違いが大きく影響していることがわかっていても、その違いを我が子や学校へどう伝えたらよいか悩むところだろうと思います。

このような場合、まず、新しい学校の環境に適応していくという柔軟な姿勢を子どもに持たせることが必要です。しかし、たいへんな努力をして身につけた滞在していた国の学校文化も失わせるようなことがあってはなりません。

基本的に、どちらがよいという判断ではなく、それぞれの「学校文化」を身につけ、両国のかけ橋に育っていくような対応が親御さんには求められます。また、お子さんには「自立への支援」というかかわり方をすることが重要です。お子さんが「自ら解決をはかり乗り越える機会」という認識で具体的な問題に対峙してほしいと思います。

「海外生活歴」の共有を!

まず考えてほしいことは問題解決のための情報の共有です。子どもにとって学校は「学習の場」である以前に「生活の場」ですので、帰国直後は学習面のにとどまらず友達づくりや新しい校則への適応が求められます。この過程で、素直に受け止められないことに直面したりさまざまな問題意識を持ったりします。

今回のような問題に限らず学校で起きた問題を解決するためには学校側と家庭との連携が絶対条件となりますので、この連携を確かなものにするためにも子どもが滞在国で受けた教育の概要や現在の学力状況を理解できるような「海外生活歴」を学校に伝え、共有してもらうことが重要と考えます。

学校側の理解不足
日本の一般的な学校では「一斉指導」をすることが多く、授業の課題や先生の指示はどの子にも同じことばで一斉に伝えられます。当然、その回答や結果については基本的にすべての子に同じものを要求することになります。

一方、自分の考えを積極的に述べながら授業を理解していくという学習スタイルを海外で身につけた帰国生の言動は、日本の先生や友達に違和感を持って受け止められることになります。特に「未修学の内容」や「聞き慣れないことば」が出てきたときには、授業の進行を妨げるような発言や質問をしてしまう場合もあるでしょう。この結果、先生や友達からは自分勝手、わがままと受け取られ注意を受けたりすることになります。

しかし、子どもが海外の学校でどのような学校生活や学習をしてきたのかを事前に担任の先生や友達に伝えておくことで、先生や友達からフォローやサポートを受けやすくなり、安心して学校に適応できるようになります。可能であれば、実際に現地校等で使用していた教科書を先生や友達に見せてあげるのもよいでしょう。そうすることでさまざまな異文化の情報が先生にも学級の友達にも伝わりますので、学校側にとっても貴重な機会となります。

帰国生側の理解不足
また、今回のような問題には、帰国生側の誤解や理解不足も大きく起因していることを理解しておかなくてはなりません。学校側に帰国生の海外生活歴を理解してもらうと同時に、子どもも保護者も日本の学校の学習内容や授業の進め方について正しく理解しておくことが求められます。

保護者のなかには日常会話に困らない程度の日本語力が身についていれば帰国後の授業にも困らないと考えている方も見受けられます。しかし、学年相応の読み書きの力や各教科の専門用語等の「学習言語」を身につけていなければ授業についていけないことを理解してほしいと思います。学年相応の学習言語が身についていて初めて新しい知識を獲得することができ、思考力を高めることができるのです。

また、お子さんに何か問題が起きたときに、その原因を帰国生であることに結びつけて考えてしまうことはないでしょうか。「帰国生だから」という先入観で帰国後のすべての問題を捉えることは危険です。

特に思春期の子どもの場合には、友人関係の構築を含めた新しい学校文化への適応に大きな戸惑いや不満をいっそう強く覚えますが、国内生でもこの時期は学校への適応や友人関係の構築で悩む児童生徒は多くいます。

この年代での帰国の場合には、「帰国生だから」という先入観を捨てて問題の本質を見極めることが大切となります。

→「第42回 〜帰国後における子どもの教育環境の違い〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員
財団教育相談員
平 彰夫

千葉県の公立小学校で教頭、校長を歴任。千葉県小学校長会理事、千葉県海外子女教育国際理解教育研究会副会長を経験。1998年より3年間、デュッセルドルフ日本人学校に教頭として赴任。この間、補習教室の教頭を兼任。2011年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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