世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2023年1月現在、167カ国で1157件(文化遺産900件、自然遺産218件、複合遺産39件)が登録されている。
カナダの東部ノヴァスコシア州に位置するグラン・プレは、フランス語で「大牧草地」を意味する農村コミュニティ。ここには17世紀に入植したフランス系アカディア人が開墾した農耕地帯が広がっている。もともと塩分が多く含まれた干潟だったこの土地に、アカディア人たちが堤防や木造の水路システムなどを建設して干拓地として整備することで、肥沃な農地へと開拓していった。アカディア人が築いた水利システムの技術やコミュニティに根づいた管理システムは今も受け継がれており、この開拓の功績と、海岸線と草原が折り重なるように広がる農村風景の美しさが評価されて、2012年に「グラン・プレの景観」として世界文化遺産に登録された。
なお、この土地で暮らしたアカディア人はその後、イギリスとフランスの戦争に巻き込まれて弾圧・国外追放の歴史をたどることとなった。グラン・プレの景観には、こうした歴史的背景を物語る史跡も残っている。
アカディア人の
アカディア人たちが開拓した1300ヘクタールほどの土地には、フランス語圏の村が12カ所存在している。そのうちグラン・プレ村とホートンヴィル村には広大な干拓地と考古学的史跡が残っており、当時のアカディア人の生活様式を今も見ることができる。ここで発展した水利システムは、堤防、アボイトーと呼ばれる木造の水門、そして排水ネットワークという3つの組み合わせで構成されている。堤防に組み込まれたアボイトーは、干潮時には水門が開いて農地の雨水を海へと排水し、満潮時には水門を閉じて海水が農地に浸水するのを防ぐ仕組みとなっており、アカディア人の伝統的な技術が用いられている。アカディア人がこの仕組みを地域に根づいた管理システムとして整備した結果、何もない干潟だった土地が肥沃な土壌へと変貌を遂げ、現在へと続く農耕地に発展したのだ。村にはアカディア人に敬意を表して建てられたモニュメントなども点在している。
グラン・プレが評価されるもう一つの理由に、田園風景の美しさが挙げられる。黄色、オレンジ、緑といったカラフルな農耕地帯がどこまでも広がる平原は、まるでキルトをつなぎ合わせたような美しさ。その背後には水平線と青い空が広がり、大地とのコントラストはまるで絵画のようだ。春から夏にかけては色とりどりの花が咲き誇り、多くの観光客を魅了している。
現在、グラン・プレはワイナリーとしても有名で、賞を受賞したワインの試飲も楽しめる。アカディア人たちの知恵と努力が詰まったこの土地に思いを馳せながら、心和むひとときを過ごしてみてはいかが。
遺産プロフィール
グラン・プレの景観
Landscape of Grand Pré
登録年 2012年
遺産種別 世界文化遺産
www.landscapeofgrandpre.ca
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