Vol.15 すべての命のふるさと
パパハナウモクアケア
− ハワイ州 −
文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito) 写真提供/National Oceanic and Atmospheric Administration
- 2020年2月6日
- 2020年2月号掲載, ハワイ州
世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2019年7月現在、167カ国で1121件(文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件)が登録されている。
ハワイ諸島主要8島の北西に、小さな島々が点々と広がるエリアがあるのをご存知だろうか。ここパパハナウモクアケアは、1350マイルに及び線状に連なる島々と環礁群の集合体からなる、世界最大級の海洋保護区。大陸から隔絶された広大なエリアに多種多様な生物が生息する、生き物の楽園だ。
エリア内は海抜マイナス1万5092フィートから902フィートという幅広い高低差で形成されている。周囲には海山と呼ばれる深海の山々やプレートテクトニクスの理解を深める貴重な資料となるホットスポット、広大なサンゴ礁、浅瀬、砂丘、草原などが見られ、変化に富んだ地形が特徴的。また、海洋から陸上にかけて生息する希少な生態系も、進化の過程を知る顕著な見本として注目されている。
多くの研究家を惹きつけるのは、その自然的魅力だけではない。パパハナウモクアケアの島々には、ヨーロッパ人が足を踏み入れる前のハワイ先住民族の考古学的遺跡も残っている。これらの自然と文化の両方の価値が認められ、2010年にはアメリカ初であり、唯一の複合遺産に登録された。
人と自然が密に関わる生命のふるさと
パパハナウモクアケアは、ハワイの言語を組み合わせて作られた名称。パパは「母なる大地」、ハナウは「生誕」、モクは「島」、アケアは「広大」を意味する。ハワイ先住民文化には、人と自然が密接に関わるという考え方がある。彼らにとってこの地は生命のふるさと、そして死後に魂が還る場所と考えられており、ハワイ先住民族の信仰や伝統に則った重要な場所なのだ。ニホアとモクマナマナという2つの島には、先住民が築いた祭壇や聖域など、西欧化以前の考古学的遺跡が残っている。これらの遺跡には独特な特徴があるのだが、ハワイ諸島から約2600マイル南のタヒチ島で見られる石像や彫刻と類似しており、文化的に関連性があると考えられている。
保護区全体の面積は、58万2578平方マイル。大部分を占める海洋地域には美しいサンゴ礁が広がり、色とりどりの魚が群れを成す。浅瀬に棲む60%と深海に棲む90%の魚類、そして40%のサンゴはこの区域の固有種だそうだ。また、保護区内の島々も多くの生物の繁殖地、捕食地として重要な役割を果たしている。現在、22種1400万以上の海鳥がこのエリアで確認されているという。さらに、絶滅の危機に瀕しているハワイアンモンクアザラシ、レイサンダックをはじめ、アオウミガメやクジラなど、貴重な固有種も見られる。
この美しい海とサンゴ礁、そして多様な動植物が棲まう魅力的な風景はぜひ一目見たい景色だが、残念ながら一般の人々が観光で訪れることはできない。かけがえのない自然を守り、貴重な遺産を後世に残すため、保護地区はハワイ州政府や内務省魚類野生生物局などが管理しており、一部の関係者や研究家しか立ち入りできないようになっている。
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