「日米交流の架け橋の場を」
日本クラブ事務所長 前田正明さん

Text by Haruna Saito

PEOPLE SPECIAL
様々な業界で活躍中の話題の人に、過去、現在、そして未来について聞く。

ニューヨークを拠点に、さまざまなセミナー、フェスティバルやディナー会などのイベント、質の高い日本食を提供するレストラン、カルチャー講座や展覧会などを通して日本文化を発信する「日本クラブ」。2020年3月13日付で事務所長に就任した前田正明さんに、過去、現在、未来について聞く。

NTTドコモUSA立ち上げに従事

日本のNTTおよびNTTドコモに勤務していた私が渡米したのは、2001年。ビジネススクールへの留学のためでした。翌年に学校を卒業したちょうどその頃、ニューヨークにNTTドコモUSAが設立されるということで、そのまま出向になりました。何もないゼロの状態からのビジネス立ち上げに携わり、四苦八苦したのを憶えています。

社員を集めるところから始まり、提供するサービスの内容を考え、まさに “無から有を生む” という非常に貴重な経験でした。ドコモは日本では知名度がありますが、アメリカでは誰も知らないところからのスタートです。必要性を感じてもらえなければ、また効率が良くなければ誰にも利用してもらえない、ある意味リアリスティックな世界で、本当に必要なものは何か、どういうサービスなら受け入れてもらえるかを深く考える機会になりました。大変なことでしたが、何のしがらみもない所でしたし、自分を奮い立たせて一からチャレンジできたことは楽しいことでした。

知己の無いアメリカでは誰も振り向いてくれるわけでもなく、自分で行動するしかありません。すべては自分の責任です。うまくいくこともいかないこともありますが、そういう環境はとても刺激になりました。実際には、みずから行動することはどこにいてもできるのですが、知人に囲まれた安心感のある環境ではそれに気づけなかったりするんですよね。若い人たちにはぜひ、外に出ていろんなことに挑戦してもらいたいです。

就任直後にロックダウン

今年の3月に日本クラブ事務所長に就任して、5日後にはニューヨークがロックダウンし、苦しい状況でのスタートとなりました。日本クラブではロックダウン中に定期的にウェビナーを開催し、新型コロナウィルスの状況やビジネスのほか、教育関係など生活に密着した情報の発信に努めてきました。映画監督をお招きしての交流や写真の撮り方講座など、日々を少しでも楽しめるようなウェビナーも実施しています。6月からは、クラブ施設のレストランで寿司や弁当のピックアップサービスも開始しました。

また、最前線で戦う医療従事者をサポートしたいとの思いで5月から始めたのが、病院へのお弁当の提供です。賛同してくれたクラブ会員や日系企業からの協賛金をもとにクラブのキッチンでお弁当を用意し、週2回、マンハッタンの12の病院に順番に差し入れています。おかげさまで6000個のお弁当を提供できるくらいのバジェットが集まりました。弁当ボックスにはドナーからの感謝のメッセージを貼り付け、受け取る側に提供者がどんな人か分かるようにしました。医療従事者の方々からも、感謝のお声をたくさんいただいています。ドナーにとっても、自分たちの協賛金がお弁当という目に見える形で医療従事者に届いたのが分かるのは、とても良かったと思います。

ニューノーマルに対応していく

ロックダウン中に始めたサービスや企画は、今後もできる限り続けていく予定です。また、日本クラブには美術品の企画展などを実施するギャラリースペースがあります。現在、これにWebギャラリーを加えて、展覧会やコンテストなどのイベントを楽しんでもらえるような仕組み作りを進めています。今回のロックダウンで、美術・音楽関係の人々は発表の場を失ってしまいました。日本クラブでバーチャルギャラリーやコンテストなどのイベントを実施し、彼らを少しでもサポートできたら嬉しいです。

日本クラブは、日米交流の架け橋になるという目的のもと、100年以上活動を続けてきた伝統のクラブです。当クラブのサービス性を損なわず、いかにバーチャル化を進めるかが今後の大きな課題となります。現在、人との交流や名刺交換といったクラブ的な要素の実施が難しくなりましたが、一方で、イベントをインターネット上に持っていくことで垣根が低くなり、遠距離の人や普段参加しないような人も参加しやすくなりました。クラブの真価は、「人々が集まり、活動を通してビジネスチャンスや交流チャンスを生むこと」。その機能がどれくらいリアルであるべきか、どれくらいバーチャル化できるのか、そしてそれをどう実現していくのかが、今後模索していくべきところですね。

どこの企業も同じだと思いますが、日本クラブも今後、ニューノーマルに対応していくために新しいことにもどんどんチャレンジしていきます。ぜひ、積極的にクラブ会員に登録してもらえたら嬉しいです。企画によっては会員以外の方が参加できるものもありますので、たくさんイベントに参加して、ぜひ日本クラブの活動を知ってもらいたいです。私自身、アメリカ生活は長いですが、日本人であること、日本人としてのネイチャーは忘れないようにしています。日本とアメリカの架け橋になるために、今回のポジションに就任させてもらえたことはとても恵まれていると思っています。今後、ビジネスもカルチャーももっとエンカレッジできるようにしていきたいです。

PROFILE
まえだ まさあき
1983年、日本電信電話(現・NTTグループ)入社、1994年にNTTドコモへ転籍。2001年に渡米。2002年にNTTドコモUSAへ出向、2008〜2015年に同社社長。Asurion社Strategic Advisorを経て、2020年3月13日付で日本クラブ・JCCI・JCC FUND事務所長に就任。
日本クラブ公式ホームページ:https://www.nipponclub.org/?lang=ja

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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