海外教育Navi 第68回
〜日本語・英語の言語力を伸ばす〜〈後編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.子どもは日本語も英語も中途半端です。どうしたらよいのでしょうか。

前回のコラムでは、生活言語の伸ばし方についてご説明しました(前回記事へ)。今回は、学習言語についてお話しします。

「学習言語」を伸ばす

「学習言語」は、学校での学習のなかで使う言語ですから、生活のなかでは出てこない内容が含まれます。「生活言語」が生活のなかで「いつの間にか」使えるようになっていくのに対して、「学習言語」は意図的な努力によって身につけていかなければなりません。

学習言語にも日本語と英語で共通の要素がありますが、語彙や語法など具体的な部分はかなり異なります。学年が上になればなるほど内容が複雑になるので、日本語と英語とを同時に伸ばしていくことは難しくなります。ここでは、日本語と英語のどちらを中心に学んでいくかの選択が必要になります。

いちばん自然な形は、通っている学校で使っている言語にまず力を入れることです。

日本の学校に通っているのなら日本語です。日本の学校では授業で教科書を使うことが多いので、小学校の高学年以上なら、あらかじめ何度か読み、読みにくい漢字にルビをふる、意味のわからないことばを辞書で引いて調べる、などの準備をするとよいでしょう。

英語圏の現地校やインターナショナルスクールに通っているのなら英語ということになります。言語が違っても、準備をして授業に臨むのが大切なのは同じことです。もし、いまの時点で日本語の方がいくらかでも得意なら英和辞典などの説明も助けになります。英語の方が得意なら、英語だけの辞書を使えばよいでしょう。

辞書を使うのが難しい年齢なら、お父さんやお母さんが自分のことばで説明してあげるとそのこと自体がよいことばの体験になります。

宿題は、十分な時間をかけることができ、次の日の学習にも結びつくので、丁寧に取り組むことで大きな効果が期待できます。ここでも、必要に応じて大人が具体的に手助けしてあげるとよいと思います。

学校で学習するような内容に関しては、まず一つの言語でしっかり理解することが大切です。そうすれば、二つ目のことばができるようになったときにその内容を表現することができるはずだからです。

学習言語に関しては、学校で使う言語に的を絞り、地道に努力していくことがいちばんの早道と言えるでしょう。

専門家の力を借りる

「子どものことばが二つとも中途半端」という悩みをお持ちのご家庭は少なくありません。ですからこのような子どもの指導を専門とする先生たちはあちこちにいます。

英語圏の現地校やインターナショナルスクールの多くには英語が母語でない子どもたちのためのプログラムがあり、それを担当する先生たちがいます。

日本の学校でも、帰国生を多く受け入れている学校や外国人の児童生徒が多い地域の学校には、日本語指導専門の先生がいたり、日本語が十分でない児童生徒のためのプログラムがあったりします。

専門の先生に相談して、必要ならこのようなプログラムのお世話になるという方法もあります。

私の知り合いにもそのような先生がいます。中高一貫校で教えていますが、彼女のもとからは日本語にも英語にも自信を持てるようになった生徒たちが巣立っています。彼女によると、「言語の獲得には年齢によって学ぶ内容にふさわしい段階があり、その時期が過ぎてしまうと取り返すのに長い時間がかかる」そうです。

マイナスをプラスに

苦しい状態から抜け出すには、時間と努力が必要なようです。しかし、子どもは日々学びながら成長していきます。いまは苦労していても、二つのことばを十分に使いこなせるようになることは夢ではありません。

「日本語も英語も中途半端」にならない方がよいのでしょうが、いつもうまくいくとは限らないのが現実です。時間を戻すことができないのなら、いまの状況をどうプラスに持っていくかを考えるのが建設的でしょう。

物事を理解するための道具はことばだけではありません。世界の人たちの結びつきが必要な時代には、ことば以外のコミュニケーション手段が注目されることでしょう。

二つのことばの狭間で悩んだ人たちはこの点では多くの経験を持っているといえます。その悩む気持ちをよく理解できる人は、多くの人を力づけることができるでしょう。

いまの苦労とそれと戦う努力は、新しい力の源になり、将来に向けての財産の一つになっていくはずです。

今回の相談員

海外子女教育振興財団 教育相談員
佐々 信行

1971〜92年、横浜市立小学校教諭(1974〜77年、ハンブルグ補習授業校教諭)。1992〜2001年、バージニア州グレートフォールズ小学校イマージョンプログラム教諭(同時にワシントン補習授業校教諭)。長女はドイツ生まれ、長男はアメリカで中高時代を過ごす。2001〜08年、啓明学園初等学校校長。2008〜14年、啓明学園中学校高等学校校長。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

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ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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