【ニューヨーク不動産最前線】
Pied-a-terraが危機

突然ですが皆さん、pied-a-terreというのをご存知ですか?

自己使用でもなく賃貸にも出さず、ホテル代わりに利用される住居のことです。戸建てでもコンドミニアムやコープのアパートでも関係ありません。これらのpied-a-terreのオーナーはパートタイム・レジデントとも呼ばれています。日本語だとpied-a-terreにぴったり相当する言葉が見つかりませんが、別宅とか別荘になるのでしょうか。別荘というと都会生活の息抜きに週末とか休みの日に行って、のんびりしたりリフレッシュするための場所というイメージですが、pied-a-terreはその逆で、人と会ったり遊んだり、コンサートや劇場に行ったりする目的で郊外の自宅から都市部に滞在するための場所です。もちろん仕事で通勤時間を節約するために利用するというパターンもあります(コロナ以降、このパターンはなくなりましたが)。利用目的からして、NYCの中でも(ブルックリンやクイーンズではなく)圧倒的にマンハッタンに多いのです。いずれにしても、自己使用、賃貸使用以外で持つ別宅のことをpied-a-terreと言います。NYCの中心であるマンハッタンには結構pied-a-terreとしての物件を持っている人がいます。贅沢な話ですが、さすがお金持ちの集まる都市の特徴ともいえます。

このpied-a-terreが危機にさらされようとしています。NY州議会でpied-a-terre用のアパートに、現行の固定資産税に加えてさらに税金を課税しようという法案が検討されています。市場価格で5ミリオン以上の物件所有者には固定資産税に加えてさらに物件価格の0.5% から4%の税金を上乗せしようというのです。固定資産税同様、毎年、永久に、です。

因みに5ミリオン以下の物件には、評価額で30万ドル以上の場合に10%から13.5%のpied-a-terre taxがかかります。評価額は通常市場価格よりは低く見積もられるため、とりあえず市場価格で1ミリオン程度までなら、この法案の適用外となりそうです。

1ミリオンなら富裕層と思われるかもしれませんが、平均売買価格が1.2ミリオンのマンハッタンでは結構日常に密着した数字で、これはニューヨークの経済に大打撃を与えかねないとんでもない法案です。州としてはこの法案が施行されれば、市の税収がアップして、コロナ禍で激減した税収を挽回できると考えているようですが、とんだ誤算だと思います。ただでさえ落ち込んでいる物件購入がさらに減るでしょう。たまに利用するためだけのスペースに、税金を払うためだけに高価なアパートを買うくらいなら、必要な時に高級ホテルに泊まったほうがいいに決まっています。今後の物件建築計画にも影響があるでしょう。不動産産業は金融と並んでNYCの重要なライフライン産業で、この流通が止まってしまうことはニューヨーク市と州にとっても大打撃になることでしょう。賃貸アパートの需要が減っている今、アパート購入の目的は自己使用かpied-a-terreです。この法案が施行されるとNYCの税収は増えるどころか減ってしまうでしょう。

議会では2021年度(今年の7月)から施行を計画していますが、業界団体は断固反対しています。この数年、NY州では不動産関連の法律改正が続いています。以前の記事でもご紹介しましたが、テナント保護という名目で改正した「新テナント保護法」が逆にテナントの賃貸の自由を妨げていて、米国でのクレジットヒストリーがない人や外国人はアパート契約のハードルが上がり、結果として余分な費用がかかるようになってしまいました(記事はこちら)。ありえない法案と思っていても実際に議会で承認されてしまうという実績があるので、今回のpied-a-terre taxも本気で心配です。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2001年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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