Vol.22 北米最大の湿原地帯
エヴァーグレーズ国立公園
− フロリダ州 −
文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito) 写真提供/NPS Photo
- 2021年6月2日
- 2021年6月号掲載
世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2020年7月現在、167カ国で1121件(文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件)が登録されている。

湿原の水深はわずか4〜12インチだが、幅は広い所で93マイルほど
フロリダ州の南端に位置するエヴァーグレーズ国立公園は、北米最大の湿原地帯。フロリダ半島の真ん中にあるオキーチョビー湖から1日に数センチ〜数メートルというゆっくりとした速度で流れる水が、この巨大な湿原地帯を作り出した。
約150万エーカーという広大な保護地区には標高差はほとんどないが、上流から下流にかけて温帯、亜熱帯、熱帯という異なる気候が存在する。上流にはマホガニーやガンボリンボなどの常緑樹、そしてアカガシやハックベリーといった熱帯性の広葉樹が生い茂っており、シカやハイイロギツネなどの哺乳類も生息している。無数の小島が浮かぶ湿原下流の海岸地帯は、川の淡水と海の海水が混ざり合う場所。広大なマングローブの森が広がっており、ここに棲む魚やカニなどを狙う鳥類やアリゲーターも多く集まる。
このように温帯と熱帯、淡水と海水に棲む植動物が共存している類稀なエヴァーグレーズの環境は、複雑で多様な生態系を生み出している。現在確認されているのは哺乳類が40種以上、鳥類が360種以上、魚類が300種以上、爬虫類が50種以上、そして固有種を含むおよそ1000種の植物だ。
エヴァーグレーズ国立公園は1979年に世界自然遺産に登録された。しかし、マイアミなどの周辺の都市がこの湿原地帯から生活用水を引いていること、また町開発が進んだことによる水位低下や水質汚染が原因で、湿地内の動植物は減少を続けている。公園内では現在、フロリダパンサーやマナティー、アメリカンクロコダイルを含む約40種が絶滅を危惧されている。1993年、エヴァーグレーズ国立公園は普遍的な価値を損なう重大な危機に晒されているとして、危機遺産リストに登録された。その後、漁業の取り締まりや湿地回復プロジェクトを経て2007年に危機遺産を脱したが、水質汚染が改善されず、2010年に再び登録されて現在に至る。
気分はまるで探検家!

マングローブのトンネルは神秘的
まずは広大な湿原をハイキングしよう。観光客に人気のアンヒンガトレイル(Anhinga Trail)は、アリゲーターや水鳥が数多く見られる湿原のトレイルだ。舗装されたルートを歩いていると、そこかしこにくつろいでいるアリゲーターが。マングローブの森を探検したいなら、カヤックがおすすめ。マングローブのトンネルを通ったり、野鳥や魚、爬虫類を間近に見たりと、まるでジャングルに来た探検家のような気分を味わえる。手軽にエヴァーグレーズ国立公園の歴史や魅力を知りたいなら、シャークバレー(Shark Valley)からトロッコに乗って出発する2時間のガイドツアーに参加しよう。この地を知り尽くしたナチュラリストが見どころを回りながら、エヴァーグレーズの生態系や環境のことをより詳しく説明してくれるだろう。

アリゲーターを観察する時は、20フィートは距離を空けよう ©︎ Rodney Cammauf
エヴァーグレーズ国立公園
Everglades National Park
登録年 1979年
遺産種別 世界自然遺産・危機遺産
www.nps.gov/ever/index.htm
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