【ニューヨーク不動産最前線】
高層ビルの外壁チェック

先月のフロリダの住宅ビルの倒壊事故は、いまだに身元不明者探しが続く大惨事です。高層ビルの下を歩く場合、常に「上から何か落ちて来たら……」という不安があります。普段はそんなこと忘れていますが、このような危険はいつもついて回りますね。ちなみに私の知り合いは、道を歩いていたら不意に目の前にエアコンのユニットがドンッ、と落ちて来たそうです。危機一髪で命拾いしたと言っていましたが、本当に怖いです。

ニューヨーク市では、通称 Local law 11と呼ばれる法律があって、6階建以上の建物は5年毎に外壁のチェックが義務付けられています。チェックの最中に問題が見つかったら、即その場で補修となります。高層ビルだらけのNYCでは1万2000棟以上のビルがこれに当てはまるそうです。雨が多く、冬には雪も降って外壁が凍るし、普段から排気ガス等で空気も悪いNYCでは、建物に対する環境が悪く劣化速度も早いようです。かつ高層なので落下物棟の危険も伴います。フロリダのような大惨事にはならずとも、この法律は必然です(正式名称:The NYC Façade Inspection Safety Program = FISP)。

観光や商用でNYCにやって来る人に、ニューヨークって工事中だらけですね、とよく言われます。確かに、水道管とか排水管、地下鉄設備等、あらゆるものが古いので、至る所で工事が行われています。加えてビルの改築や新築工事もいろんな場所で見られます。それにプラスして、FISP関連の足場が至るところにあるので、残念ながらほぼすべてのブロックで工事中という印象になっているのは事実です。インフラ整備や新築ビルの工事は完成すれば終わりますが、FISPは定期検診的なもので終わりがないので、いつもどこかで足場を見かけるのです。

工事の多いニューヨーク

ところで、このインスペクションには結構お金がかかります。各ビルがお金を負担することになっていて、通常はビルの余剰金で賄うのですが、お金に余裕のないビルの場合はアパートオーナーに負担が回って来ます。毎月の管理費に一定期間(1〜3年)上乗せして請求が来たり、金額によっては一時金で払わせられたりします。また、実際に外壁に足場を組んで作業をするので、階数によってはビューが遮られたり、窓を開けられなくなったりという実害も出てきます。それが半年から1年程度続くので、結構気が滅入るものです。

もちろん安全第一ですが、将来メンテナンスフリーの外壁ができてくれればこの作業もなくなり、NYCはもっともっと美しい街になるのではと期待しています(笑)。

 

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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