海外教育Navi 第87回
〜帰国枠での中高大受験の際の留意点〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.中学校・高校・大学における帰国枠での受験に関して、帰国時期を含めた留意点を教えてください。

受験情報収集は出国前から

海外滞在期間が長くなってくると気になるのが帯同した子どもの帰国後の学校選択でしょう。いつ帰国になるかわからないので、落ち着かない気持ちでいるのは子どもも同じです。また、今回のコロナ禍のような問題がいつ起こるかわかりません。

ここで大切にしたいのは、いつ帰国になったとしても慌てないで済むように出国前から「帰国生入試」に関する基本的な情報を持つようにすることです。

最も重要な受験資格要件

「帰国生入試」では一定の受験資格要件を定めて一般入試とは別の枠を設けています。中学および高校段階では都道府県教育委員会や各私立学校が、大学では各大学が詳細を決めています。帰国生入試での受験を考える場合、最初に学校種や志望校に応じた受験資格要件を確認することが重要です。

海外滞在年数と帰国後の期間
受験資格要件のなかで最も重要なのは「海外滞在年数や帰国後の期間」です。中学、高校、大学に共通して「海外滞在期間2年以上、帰国後2年以内」を条件に課している場合が多いのですが、海外滞在1年以上としている学校や帰国後5年以内としている学校などさまざまです。

高校受験で求められる「9年生修了」
高等学校は義務教育ではないので、入学するためには選抜試験を受けて合格しなければなりません。海外から受験する場合には「日本人学校中学部の卒業(見込み)」や「外国において、学校教育における9年の課程を修了(見込み)」という規定があります。そのため、この条件を満たすことができないと想定された場合には帰国時期を早めて中学校段階で帰国したり、現地で9年生を修了したあとに帰国したりしなくてはなりません。

大学受験で求められる「12年生修了」と「統一試験」
帰国生大学入試では「外国において学校教育における12年の課程を修了した、あるいは修了見込みであること」という受験資格要件が求められます。

なお、帰国後に日本の高校に在籍した生徒にも受験資格を与えている大学も一部ありますが、選択肢を広げるには現地で12年目の課程を修了しておくことが重要です。

また「統一試験」の提出を求めている大学もありますので、SATやGCEなど滞在国で取り組める統一試験を受けておくと選択肢はさらに広がります。

このように帰国生入試では各学校種や学校ごとに「受験資格要件」が定められていますので、これらの資格要件を満たすように受験準備を進めたり帰国のタイミングを見極めたりすることが重要です。

特に高校段階以降で帰国する場合には、志望する高校や大学の入試要項を学校歴に照らし合わせて確認しておくことが大切です。

帰国入試の特徴と帰国のタイミング

帰国生入試は一般入試に比べさまざまな違いや特徴があります。帰国予定の地域や志望校の概要・特徴をよく調べておくと、帰国時期も具体的なイメージを持って考えることができます。

学校歴に合った受験方法
帰国生入試では複数の受験方法や受験科目の組み合わせが用意され、学校歴や学力の実態に合った受験方法を選択できるようになっています。

中学校の入試で最も多い選考方法は2教科(国語、算数)と4教科(国語、算数、理科、社会)からの選択、および面接です。

また、国語、数学、英語から2教科を選択できる方法や3教科で受験するが合否の判定は高得点の2教科で行っている学校も多くあります。

なかには、「面接」のみ、もしくは「英語」のみを課している学校もあります。

このように多様な受験方法があるのが帰国生入試の特徴です。

公立高校の帰国生入試
公立高校の場合にも、次に示すように一定の配慮のもとに帰国生入試が行われていますが、都道府県ごとに受け入れ方法に違いがあります。すべての公立高校で受け入れているところもあれば、受け入れ校を限定している場合もあります。そのため、帰国する地域の入試要項を事前によく調べておくことが重要です。

また試験問題についても、入試教科を削減しているところもあれば、一般入試とは別の問題を作成している場合もあります。

都立高校を例にとると、一般入試では国語、英語、数学、社会、理科の5教科ですが、帰国生入試では社会と理科を除いた3教科を課しています。さらに、これまでは一般受験の問題より国語はやさしく、英語については難しくというように難易度においても一定の配慮がされています。

なお都立国際高校の現地校出身者を対象にした入試では、作文と面接のみを課しており、使用言語についても日本語と英語のどちらかを選択できるようになっています。

私立高校の帰国生入試
私立高校でも、選抜方法や受け入れ後の教育内容は学校ごとに異なりますが、公立高校以上に特色ある入試が行われています。

多くの学校が「3教科」と「面接」を基本としていますが、「書類選考」や「面接」のみを課している学校も複数あります。

→「第88回 〜帰国枠での中高大受験の際の留意点〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団 教育相談員
平 彰夫

千葉県の公立小学校で教頭、校長を歴任。千葉県小学校長会理事、千葉県海外子女教育国際理解教育研究会副会長を経験。1998年より3年間、デュッセルドルフ日本人学校に教頭として赴任。この間、補習教室の教頭を兼任。2011年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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