宮崎夏実
Cirque du Soleil パフォーマー

Text by Haruna Saito

高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

今年からCirque du Soleilのパフォーマーとして活躍する宮崎夏実さん

偶然出会ったシンクロが人生の糧に

シンクロナイズドスイミング(現・アーティスティックスイミング)を始めたのは12歳の時。私は生まれつき骨盤がしっかりはまっておらず、いつ外れてもおかしくない状況でした。それもあって、股関節の周りに筋肉をつけるために小さい頃から両親が毎日のように私をプールに連れて行っていたんです。そんな中、テレビでシンクロナイズドスイミングを観る機会があり、「私もやってみたい」と思ったのがきっかけで始めました。2014年には、日本代表として出場したアジアオリンピックとFINAワールドカップで銀メダルを獲得しました。

2016年からは、ラスベガスのウィンホテルで公演されているLe Rêveというショーで5年間パフォーマンスに携わりました。そして2020年、新型コロナウイルス感染が拡大し、ショーは休演に。多くのパフォーマーが活躍の場を失いました。現状をなんとかしようとLe Rêveやシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーたち6人で立ち上げたのが、新たなラスベガスのショー「APÉRO」。コロナ禍での制限もあり、ガバナーの基準などをクリアしながら6カ月間パフォーマンスを行いました。その後、徐々にショーが再開し始め、私は今年(2021年)から再開したベラジオ・ホテルのシルク・ドゥ・ソレイユ “O” に移籍し、今はそちらで活動しています。

渡米したのはハプニングのようなもの

もともとアメリカに行きたいという願望はありませんでした。シンクロナイズドスイミングの日本代表になると1年間ずっと合宿をしていることが多く、中学や高校には
1カ月に1回くらいしか行けなかったんですね。なので、普通の生活をしたいという思いがあり、シンクロを引退して大学4年生の時はバイトや就活をして、家族と過ごす時間も大切にしていました。

渡米するきっかけとなったのは2015年の夏、友人とラスベガスに旅行に行った時のこと。ちょうどLe Rêveでシンクロナイズドスイミマーを探しているという情報を入手したんです。そのショーに出演していた日本人パフォーマーから声をかけられ、じゃあやってみようということでオーディションを受けたらその日のうちにオファーをもらいました。その時はまだ学生でしたし日本で就職先も決まっていたのですが、直感的に「やりたい!」と思ったんです。それで、日本の状況を整理してからオファーを受けるという契約を交わし、2016年の1月に渡米しました。

渡米して気づいたこと

「やりたい」と思ったら、その直感を大事にするという宮崎さん

Le Rêveでは、アジア人は私一人だけでした。差別ではないのですが、アジア人という “区別” みたいなものは暮らしていくうえで感じることがありましたね。「日本人はこういう人種だよ」というのを日本人代表としてしっかり見せなければと思い、絶対にミスしないとか、細かい部分をきちんとするなどを心がけて信頼を得られるようにしていました。周りの人には、「日本人は丁寧で時間に遅れない」とよく言われました。私たち日本人にとっては当たり前のことだけど、それが「ちゃんとしている」という印象につながっていたみたいです。

おもしろいと思ったのは、海外からの日本食に対する認識ですね。アメリカにはこの国特有のファンシーな寿司ロールがいっぱいあるじゃないですか。以前、友人がすごく好きだという寿司ロールを食べたことがないと伝えると、「夏実は日本人なのに寿司を食べたことがないの⁉︎」と驚かれました。日本の寿司は基本的に握りで、ロール寿司はアメリカナイズされたものだと伝えたら、「知らなかった!」と。またある日、友人が「私は今日体調が悪いからラーメンを食べて寝る」と言われて。え、体調が悪いならラーメン食べないほうが良いんじゃないかなと思ったけど、「ラーメンはヘルシーだから良いよね」と言っていて。私たち日本人にとってラーメンはヘルシーな食べ物ではないけど、彼らにとっては日本食=ヘルシーで、ラーメンもヘルシーだと思っているみたいです(笑)。

生活するうえで感じたのは、アメリカでは個人を主張することが大事ということ。日本は集団行動が基本で、人に合わせるという文化が強いですよね。私もシンクロナイズドスイミングをやっていたので、パフォーマンスではチームでしっかり合わせることが求められるし、合宿などを含めて集団行動を極めた中で生活していました。一方、アメリカではみんなやっていることがバラバラだったりするので、周りに合わせるのは難しいと感じました。自分をしっかり持っていないと周りに流されてダメになってしまうし、個性を主張することが仕事のレベルにもつながるので、ここで生活していくには私も主張していかないと戦っていけないと気づきました。

将来は自分で何かを作り上げたい

Cirque du Soleil “O”

シルク・ドゥ・ソレイユはエンターテインメントの中でも大きな会社です。そんなシルク・ドゥ・ソレイユ でパフォーマーとして働けることに、本当に感謝しています。ここにはいろんな人種がいて、一人ひとりに素晴らしい才能があります。そんな人たちと毎日のようにお仕事をしてインスピレーションを受けられるのは、とても良い刺激になっています。まだまだ彼らからパフォーマンスや演技力、テクニックなどを学びたいという気持ちが強く、体の続く限りはここでみんなと働いて刺激を受けたいと思っています。

最終的な目標としては、イベント会社を作って日本でも活動することです。アメリカ、特にロサンゼルスやラスベガスには、結婚パーティや誕生日パーティにパフォーマーを呼んでパフォーマンスを行うような、小さなイベント会社が多いんです。こういったエンターテインメントを日本にも持って行き、パフォーマーを集めて小さな会社を作り、イベントができたらおもしろそうだなと思います。実はコロナの少し前から、私の幼なじみでありリオ・オリンピックのメダリストでもある親友と一緒に日本各地の小学校や大学の文化祭などを訪れて、パフォーマンスイベントを行っているんです。自分たちで何かを作り上げることを私たちの目標に掲げて今後も続けて行き、徐々に規模を大きくできたら良いなと思っています。

パフォーマーの人生ってそんなに長くはないんですよね。体が資本なので、体が動く間はもちろん自分のスキルを磨いていきたいです。ただ、今後自分が動けなくなった際に次の世代のために何ができるかと考えた時に、アスリートたちのセカンドキャリアの場を作ることができたら良いなという思いがあるんです。

読者に向けて一言

アメリカに来てから言葉の面で壁を感じることや、ぶち当たる壁はたくさんあると思います。でも、それは時間が解決してくれるし、自分で超えられる時が必ず来ます。私は、日本では年功序列だったり組織だったりに縛られている感じがありました。でも、アメリカに来てみるとフリーダムを感じるようになりました。せっかくアメリカに来たのなら、自分のやりたいことをやるのが1番だと思います。

自分らしく、ありのままに!

プロフィール

1993年、東京生まれ。12歳からシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)を始め、2014年FINAワールドカップで銀メダルを獲得。引退後、ラスベガスにあるLe Rêve からオファーをもらい2016年渡米。約5年Le Rêve で働いていたが、コロナによりショーが閉鎖。パンデミック中シルク・ドゥ・ソレイユ の仲間たちと新しいショーAPÉRO を立ち上げる。2021年シルク・ドゥ・ソレイユ “O” から契約をもらい、7月にシルク・ドゥ・ソレイユ が再開。“O”のパフォーマーとして活躍中。

■Instagram:@natsumimiyazaki0714

Cirque du Soleil “O”
シルク・ドゥ・ソレイユ “O”

ラスベガスのBellagio Hotelで公演されているシルク・ドゥ・ソレイユ “O” は、神秘的な水の世界を表現したショー。“O” はフランス語の「水(eau)」から来ている。約1.5百万ガロンもの水量があるプールでは、世界級のアクロバットやシンクロナイズド・スイマー、ダイバーによる華麗なパフォーマンスが繰り広げられる。

■公演日:毎週水〜日曜 7:00-8:30pm、9:30-11:00pm(1日2回)
■チケット販売:
オンラインは https://bellagio.mgmresorts.com/en.html または https://www.cirquedusoleil.com
電話は 888-488-7111 または 702-796-9999

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 今年、UCを卒業するニナは大学で上級の日本語クラスを取っていた。どんな授業内容か、課題には...
  2. ニューヨーク風景 アメリカにある程度、あるいは長年住んでいる人なら分かると思うが、外国である...
  3. 広大な「バッファロー狩りの断崖」。かつて壮絶な狩猟が行われていたことが想像できないほど、 現在は穏...
  4. ©Kevin Baird/Flickr LOHASの聖地 Boulder, Colorad...
  5. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  6. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  7. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  8. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
ページ上部へ戻る