世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2021年8月現在、167カ国で1154件(文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件)が登録されている。
カナダの西海岸沿いに浮かぶクイーン・シャーロット諸島は、先住民ハイダ族の遺跡が残る群島。約5000年前にこの島々にやってきたハイダ族は集落を築き、漁業や狩猟で暮らしを立て、長い年月をかけて独自の文化を育んできた。しかし、のちにこの地に入植したヨーロッパ人らが持ち込んだ病気が瞬く間にハイダ族の間に広まり、人口が減少。19世紀末にはほとんどの集落が廃墟となってしまった。放置された村々の住居は朽ち果て、現在では苔に埋もれて森の一部と化している。
そんななか、ハイダ族の集落跡が良好な状態で現在も残っている村がある。それが、クイーン・シャーロット諸島の最南端、アンソニー島にあるスカン・グアイだ。この村には、貝塚や洞窟などハイダ族の生活様式を示す史跡が今も残っており、中でも貴重なのが巨大なトーテムポール。トーテムポールとは、文字を持たない先住民が精霊や伝説上の人物、カラスやワシなどの動物を彫刻した木造の柱。主に家族の出自や歴史、出来事などを記録して伝承するために立てられたのだそうだ。ほかの島々にあったトーテムポールは雨風に晒されて朽ち果ててしまったが、スカン・グアイには150年以上経った今も当初と同じ場所に32本のトーテムポールが残っており、ハイダ族の文化や神話などを語り伝えている。シダーウッドで作られたトーテムポールは家の前や墓地に立てられたり、家屋を支える柱として利用されたりとさまざまな用途で使われていた。文字を持たなかった先住民の生活を知るうえでとても貴重な遺産として評価され、1981年に世界文化遺産に登録された。
神話の世界へ
アンソニー島へ一歩足を踏み入れると、島全体を覆う苔むした巨木の森に自然の大いなるパワーを感じずにはいられない。静かに佇むトーテムポールの一つひとつを眺めていると、ここに生きたハイダ族たちの物語や語り伝えられて来た神話が聞こえてくるようだ。ハイダ族の文化では、大地と海それぞれと強い結びつきを持つことが重要とされてきた。トーテムポールは大地と海と人々を結んだ絆の証。大地とのつながりを失うことは、ハイダ族自身の文化を失うことを意味する。今も大地にしっかりと立つトーテムポールは、長い間この土地と海とを静かに見守って来たのだろう。
アンソニー島では、景観を崩さないよう1日に上陸できる人数が制限されている。島へのアクセスは空路もしくは海路のみ。クイーン・シャーロット諸島にはアンソニー島のほかにも手付かずの自然が残る島々が点在しており、小型ボートで各島を巡ることもできる。海辺では、アザラシやハクトウワシ、ザトウクジラなどを目撃できるチャンスも。
太古から伝わる神話の世界へ、ぜひ一度は訪れて欲しい。近い将来、アンソニー島に残るトーテムポールも雨風に晒されて朽ち果ててしまうその前に。
遺産プロフィール
スカン・グアイ
SGang Gwaay
登録年 1981年
遺産種別 世界文化遺産
www.pc.gc.ca/en/pn-np/bc/gwaiihaanas
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