海外教育Navi 第104回
〜英語力の差に悩む必要はない〜〈後編〉

Q.帰国生の多い学校に入学したところ、自分の英語力に自信を失い、やる気をなくしています。どうすればいいのでしょうか。

前回のコラムでは、必要な英語力は環境によって異なるということを例を交えてお話ししました(前回記事へ)。今回は、悩みを乗り越えた生徒たちの体験談をご紹介します。

英語ができるということ

英語ができてうらやましいと思われている生徒にも悩みがあります。

「14年半もアメリカに住んでいたので、それなりに英語力に自信があった。しかしレベル別の授業でプレゼンテーションやディスカッションを経験すると、周りには自分よりもはるかに英語ができる生徒が多いことに気づき、英語を話すことに少し抵抗感を抱いていた時期があった。だが私はある日、周りと比べて英語力の優劣を勝手に決めるのは無意味であることに気づいた。周りに比べて自分が劣っていると決めつけているのは自分ではないか。むしろ、こんなにも英語力を培うことができる恵まれた環境で学ぶことは、自分の成長につながるのではないか。そう思った」

「私を含む多くの帰国生の英語力は、環境に依存しています。日本ではまず不可能な、毎日英語に囲まれて過ごすという状態で数年を過ごせば、多少は英語も身につきやすいというのは否定できません。私は親の転勤がなければ、生の英語にはいっさい触れずに高校に行っていたでしょう。『親の仕事の都合』という自分の力のまったく及ばない要素によって人生のコースが規定されてしまったということを考えると、じつは自分がまったく無力ではないかと思わされ、私は怖くてたまりません」

自信を持つために

自信を取り戻すためのアドバイスをもらいました。

「英語のスピーチの課題が出たとき、僕は寮のみんなの前で大声を出して英語を練習していました。当然、英語の内容や発音がやばいので英語上級クラスのみんなには『どんな英語だよ』と突っ込まれるわけですが、『インターに行ったことないからできるわけないし』と開き直ることで、できる友人たちからいろいろとアドバイスをもらうことができました。英語ができないいいわけである程度保身しつつ、開き直ることでプライドを傷つけずいろいろ吸収できるんじゃないかなと思います」

「自分は英語はいちばん上のクラスになれると思ったけどなれなくて最初は自信を失った。でも自分の英語のクラスにも同じような人がいたのでいっしょにがんばれるようになった。いま考えるとちょうどいいレベルの英語のクラスにいたことで、楽しく勉強することができたし、いまのレベルでも英語のスキルアップは十分できた。レベルが高いほどいいっていうマインドセットをやめればいいと思う。別にレベルがどうだから周りからの評価が変わるというわけではないのだから、自分自身の気持ちの問題。自信を失うことはないと思う」

「病院で困っている人がいて、英語で話して助けることができた経験がある。看護師さんからも日本語に困っていた人からも感謝してもらえてとてもうれしかった。誰かを助けるだけの英語力は身についているんだなって実感することができたから、誰かと少しでも英語で話せたりすると少しは自信がつくと思う」

「日本人学校の英語のレベルは国内の中学より高いと自負していましたが、入学当初は周りで英語が飛び交い、母語のように英語を扱う生徒を見て自分とは別世界だと感じました。しかし自分と同じような経験を持っている人と出会い、いっしょにがんばるうちに、英語を流暢に話す人は育ってきた環境が違うのだと割り切って考えられるようになり、不安は少しずつ解消されました。いま流暢に英語が話せる人も、海外に行ったばかりのときは英語が話せなかっただろうし、努力してきたのだろうなと思います。その人たちにどんなふうに勉強したのか、どのような言い回しをしたらいいのかを聞くことができたのも新しい発見につながりました。

逆に、日本語を苦手と感じている友人から日本語や国語などの質問をされたときは、自分を頼りにしてくれる人がいると感じて、自分がいままで学習してきたことに自信を持てるようになります。

『周りと比較する必要はまったくないということ。それぞれに育ってきた背景があり、それはみんな違うから、その前提条件で優劣をつけなくていい』『自分がいま置かれている環境をうまく利用して、自分にとって有意義な情報を手に入れることで自分の成長につながる』『同じような境遇の仲間を見つけることで、互いに高め合うことができる』、そう感じています」

昔のCMに「みんな悩んで大きくなった!」というのがありました。壁にぶつかることは、決して悪いことではありません。乗り越えた経験こそが人間を成長させるのです。

次に君に会えるときは自信を取り戻して成長した姿を期待しています。

今回の相談員
海外子女教育振興財団 教育アドバイザー  
中山順一

帰国子女の受け入れを目的に設立された国際基督教大学高等学校で創立2年目から38年間勤務。6000人以上の帰国生徒とかかわった。2008年より教頭。教務一般以外に入試業務(書類審査を含む)も担当した。2017年より海外子女教育振興財団で教育アドバイザーを務める。
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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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