親から相続した日本の不動産の処分方法 〜相続不動産登記の義務化〜

海外在住者の心配事の一つに、日本在住の親御さんのことがあるのではないでしょうか。加齢とともにいずれは介護や亡くなった際の相続などの手続きが必要になると思いますが、専門的で難しい内容に加え、海外在住だと日本からの情報も入りづらく自分で調べるのも一苦労です。今回は親の実家を相続する際に必要となる不動産の所有者の登記事項(名義変更手続き)についてお話しします。

1.不動産登記と所有者不明土地の問題

不動産(土地、建物)は不動産登記簿に所有者が明記されており、売買や相続によって所有者が変わると登記変更手続きが必要になります。売買による変更であれば買主が意思を持って購入するので登記変更手続きを行えますが、相続、それも相続しても資産価値がないような不動産の場合や一部の相続人が消息不明の場合は、登記変更する人がいない、またはいても相続人全員の合意が得られないため、所有権が相続人に移っているにもかかわらず登記簿上は以前の所有者のままとなっている場合があります。そうした状況が数十年経過すると、二次相続(子から孫への相続)となり、相続人の数もねずみ算式に増え、いざ不動産を処分する必要が生じても手が付けられないという状況になります。

このような土地は所有者不明土地として年々その数は増えており、近年問題となっています。2017年度国土交通省の調査(※)によれば、調査対象地の約22%が所有者不明土地であり、その原因の3分の2を “相続登記の未完了” が占めています。しかし一方で、この不動産登記手続きは義務となっておらず、所有権が移転した際に手続きをしなくても問題はありません。手続きそのものが面倒で、専門家(司法書士など)に依頼すればそれなりに手数料もかかるため、ついつい放置してしまうことにつながっています。

2.不動産登記の義務化

この問題を解消するため登記制度が改正され、相続不動産の登記が義務化されることになりました。どういう内容かいうと、不動産の相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に、土地、建物の相続登記申請を行うことが義務化され、正当な理由なく申請しない場合は10万円以下の過料の対象となるのです。この制度は2024年4月1日から施行されますが、すでにその前に相続を開始している場合には経過措置があり、2027年3月31日が登記申請の期限となります。

3.遺産分割が成立しなかった場合

ただ、不動産の場合、現金のように相続人の人数分に応じて簡単に分割できるわけではありません。相続人が複数いる場合、相続後に居住したり売却したりする目的で相続人のうちの一人だけが相続するといったケースでは、相続人全員による遺産分割協議が必要となります。では、もしこの遺産分割が3年以内に成立しなかったらどうなるのでしょうか?その場合は、相続登記の申請の代わりに「相続人申告登記」の申出という手続きを行います。これは相続人(全員である必要はなし)が、「所有者が死亡して相続が発生し、自分がその相続人の一人であることを申し出る」ことで不動産登記の義務を果たしたことと同様の扱いになります。その後、遺産分割が成立した場合は、成立した日から3年以内に相続登記の申請を行うことになります。仮に分割協議が成立しない場合は、その後の登記申請については何も定められていません(そのまま放置していても特に問題はない)。

4.相続した不動産に資産価値がない場合
(相続土地国庫帰属制度の創設)

親から相続した不動産については、「自分で住む」「売却してお金を得る」「賃貸に出して家賃収入を得る」ことができればよいのですが、そうした不動産ばかりではありません。不動産が古い、狭い(広い)、立地が不便といった理由で住む、売る、貸すことができなければ、処分することもできず所有し続けるしかありません。そこで、相続したものの不要な土地(建物は対象外)を手放し、国(国庫)に帰属することができる法律ができました。この制度は2023年4月27日から施行されます。

ただし、本制度で対象となる土地は更地である(建物がない)、担保権·使用権などがない、敷地境界が明らかになっている、などいくつかの制約が設けられているので、どの土地にも適用できるわけではありません。実際問題として、資産価値の低い不動産についてはそれなりの理由があることから、この制度の対象とならない可能性があります。

この相続土地国庫帰属制度や相続を含め、所有する土地の取扱いについて詳しく知りたい場合は、下記のWebサイトを参照してください。

法務省Webサイト:相続土地国庫帰属制度
https://www.moj.go.jp/content/001375975.pdf
国土交通省Webサイト:所有する土地に困ったら https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001406392.pdf


いかがでしょうか?いずれにしても、親から不動産を相続する場合は早い段階で(できれば親と相談できる時期から)計画しておくことが望ましいでしょう。

(※)2017年度国土交通省「地質調査における土地所有者等に関する調査」による

     

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、成年後見など日本在住の老親のサポート)を行う。

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