亡くなった日本の親の財産の相続、借金のほうが多かったらどうなる? ~相続放棄制度とその活用〜

海外居住者の人はあまり聞いたことがないかもしれませんが、日本の相続においては、相続放棄という方法があります。これは文字通り相続により財産の継承(受取)を放棄(辞退)するという意味ですが、「親の財産は相続人である配偶者や子がもらうのが当然」であり「放棄なんて考えられない」というのが多くの方の認識だと思います。しかし財産は預貯金や不動産などのプラス財産だけではなく、時には負債(借金、ローン)などマイナス財産の場合があり、これも相続人がその債務を継承しなければなりません。そうした場合は相続放棄をすることで債務の継承を回避することができます。今回はこの相続放棄について紹介します。現在日本の高齢の親がいる場合、資産内容によっては(負債がある場合)は必要な手続きとなりますので参考にしてください。

1.相続放棄の概要と利用状況

まず相続には下記の3つの方法があります。

  1. 単純承認:プラスの財産、マイナスの財産すべて引き継ぐ方法
  2. 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法
  3. 相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法

相続する財産について、たとえ一部プラス財産があったとしてもトータルでマイナス財産になるのであればいずれかの方法を取ることになります。何もしなければ単純承認したことになりますが、限定承認や相続放棄を希望する場合は相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述する(申し出る)必要があります。その間、何もしなければ自動的に単純承認となります。一般的には自分には関係のない親のマイナス財産を相続する人はいないと思いますので、特別な事情がなければ③の相続放棄をすることになります。下記は最近の相続放棄の申述の受理件数です。

出所:最高裁判所「司法統計年報」家事審判・調停事件の事件別新受件数-家庭裁判所

2.相続放棄は相続人全員の合意が必要?

遺産分割協議(相続財産を相続人間でどのように配分するか)は全員の合意が必要ですが、相続放棄は個人の権利なので他の相続人の合意なく手続きできます。ただし、できれば他の相続人の合意を得た方が望ましいことは言うまでもありません。自分にプラスの財産の相続権がある場合に相続放棄をすれば、その財産は他の相続人の財産に加算されます。

3.相続放棄を活用するケース

相続財産がマイナスの際に有効となる相続の放棄ではありますが、トータルでプラスの財産である場合も、活用することができます。

  1. 次の相続順位の人へ相続させる場合
    たとえば次のような例です。[父、母、姉、弟]という親子2代の家族があり(姉、弟とも独身で子なし)、父が死亡、その後姉、母と順に死亡したとします。この場合、1回目の相続で姉が父から相続した財産は、姉の死亡後、再び法定相続人である母が相続することになります。そうするとその後に母が死亡した際、(姉から相続した財産含め)弟が相続することになります。

    ・[1回目の相続] 父の財産 → 母、姉、弟が相続
    ・[2回目の相続] 姉の財産 → 母が相続
    ・[3回目の相続] 母の財産 → 弟が相続

    つまり、父親の財産のうちの一部は A:[父→姉→母→弟]と継承されるため、金額によってはその都度相続税の負担が生じます。この時、母が姉の財産の相続を放棄すると、母は初めから相続人ではなかったものと見なされ、次の相続順位の弟が姉の財産を継承します。こうすれば、B:[父→姉→弟]という流れになってAのケースと比べ相続の回数が減り、相続税の合計を抑えることができる可能性があります。なお、相続において、兄弟姉妹が相続する場合は相続税額が2割加算となるため、上記A, Bのどちらが相続税を抑えられるかあらかじめシミュレーションする方がよいでしょう。
  1. 遺産分割協議への参加を拒否する場合
    被相続人の財産に対し遺産分割協議を行う場合、相続人全員の合意が条件となりますが、たとえば前妻や愛人との間に出生した子がいて、現在の妻や子と確執がありお互いに面会したくないという場合は、相続放棄をすることで遺産分割協議への参加の義務がなくなります。ただし、プラスの財産の相続権があっても放棄することになりますので、その相続額によって判断されるのがよいでしょう。

4.相続放棄の対象外となる継承財産

1)死亡保険金
被相続人が契約者で保険料負担者となる保険契約において、被相続人が保険金の受取人に指定されている場合、相続を放棄してもこの保険金を受け取ることはできます。ただし注意しなければならないのは、死亡保険金には相続財産とは別に非課税限度額として[500万円×法定相続人の数]となりますが、相続放棄した者は相続人ではないので、この限度額を適用することはできません。

2)遺族年金や未支給年金
日本の公的年金(厚生年金、国民年金など)で、遺族に支給される遺族年金は、被相続人死亡後の遺族自身が受給する権利をもつもの(つまり被相続人が受給権をもつものではない)ので相続を放棄した者も受給することができます。

いかがでしょうか?専門的な内容なのでわかりづらいかもしれませんが、親が負債を抱えているケースの相続においては切実な問題なので、該当する人は是非確認してみて下さい。

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

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