なるほど!海外居住者が行う日本の親の相続手続~③不動産(実家の家)の取扱い(相続登記、処分)~

本シリーズの前々回(2024年11月24日)前回(2025年1月17日)に続き、日本に住む親の死亡後の手続きの中で今回は不動産(実家の家)の取り扱いについて紹介します。具体的には、①死亡直後に留意すべきこと、②相続のための不動産登記手続き、③将来に向けた処分方法、についてです。

1.死亡直後に留意すべきこと ~ 相続手続が終わるまでは自分の滞在場所

人が死亡するといろいろな手続きが発生します。役所への届出から始まり、葬儀の手配、関係者への連絡、行政手続き、金融機関への届出(口座解約)、相続(税金、遺産分割)、不動産や遺品の整理・処分などを行います。日本に住む親が亡くなり自分がこうした手続きをする場合は短期間では終わりません。状況によっては数カ月~1年、仕事などの都合で居住国(米国)へときどき戻る必要がある場合は何度か来日を繰り返すことになります。この間、親が住んでいた家はその後も自分が引き続き家財の整理や処分の作業のため滞在するので、死亡後に無駄だからといって電気、水道、ガスなどの契約をストップしないように注意しましょう。また親が加入していた通信関係(インターネット回線、テレビ、電話などの)契約も同様です。毎月の料金が無駄だからと解約してしまうと、自分が滞在する時に不便ですし、パソコンやスマートフォンに金融資産の情報(口座情報、パスワードなど)が保存されているかもしれませんので、契約を継続しておいた方が良い場合があります。これらの契約は一旦解約してしまうと、本人は既に死亡しているので再加入というのはできないので注意が必要です。

2.不動産登記手続き

1) 相続登記が必要です
まず不動産登記とは、法務省のWebサイトには

「大切な財産である土地や建物の所在・面積のほか,所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し,これを一般公開することにより,権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし,取引の安全と円滑をはかる役割をはたしています」

と記載されています。つまりこれまで親が住んでいた実家が持家、つまり所有者が親であれば、実家も親の財産の一部であり、相続により相続人へ所有権が移ることになります。したがってそれに合わせて所有者の名義を相続人に変更する手続きが必要となります。これを「相続登記」といいます。

2) 手続き方法
以下の方法で手続きを行います。

・窓口
実家(不動産)のある地域の管轄の法務局になります。

・期限 ~いつまで?
相続登記は相続発生後速やかに行うことが求められていましたが、これまで手続きせずに放置していても特に罰則はありませんでした。しかし2024年4月より「相続により相続人が不動産を取得できることを知った日」または「遺産分割成立した日」から3年以内に相続登記しない場合は罰則が適用されることになりました。具体的には、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の適用対象となります。

・登記申請者 ~誰が?
相続人代表者が行いますが、代理人による手続きも可能です(委任状が必要)。また専門家に報酬を払って代行手続きを依頼する場合は、弁護士または司法書士に依頼します。手続きに必要な書類や申請書の記入方法などを法務局で教えてもらい相続人が自分で申請することもできますが、難しい場合は専門家に依頼した方がスムーズに進められます。

3)遺産分割協議書の活用

相続人が複数いる場合、被相続人の財産は法定相続として定められている割合で分配します。例えば配偶者は財産の2分の1、残りの2分の1を子の人数で均等分割する、というように。この分割は現金や不動産毎に行います。しかし不動産はモノですから現金のように相続人に均等分割することが簡単にできません。一旦不動産の所有権を相続人全員の共有物件として登記することになります。ただ共有物件とすると、その後売却、解体などの処分手続きの際、所有者全員からの書面による合意が必要となるなど面倒です。そこで遺産分割の際、不動産については相続人のうちの一人が取得するというように指定することができます。この際、相続人全員の合意を得て遺産分割協議書というものを作成することで、所有者一人での相続登記が可能となるので、うまく活用すると便利です。

3.将来に向けた処分方法 ~相続した不動産をどうする?

1) 居住可能な場合
相続した不動産について土地と建物、又は建物(借地権付きの家)でまだ居住可能であれば、A)相続人や親族が引続き居住する、B)売却する、C)賃貸する、などの選択肢があります。A)については居住希望者がいればそのまま他の相続人と合意の上で問題ありません。B), C)については、購入希望者、賃借希望者がいれば交渉して決めますし、いなければ不動産仲介業者に依頼するのが一般的です。

2) 居住が難しい場合
一方建物の築年数が長く老朽化している、または自然災害などで損傷がある、といった理由で居住継続が難しい場合は解体して更地にしてから、新たに家を新築または更地として売却、賃貸する選択肢もあります。解体には解体業者に依頼して解体作業を行いますが、土地と建物のケースでは、不動産業者に依頼すれば解体作業も含めて買取してくれる場合もあります。

4.海外居住者が気を付けたい注意事項

これは海外居住者に限らず日本国内居住の相続人にも言えることですが、特に日本の法律、制度に接する機会の少ない海外居住者が陥りやすい問題点として紹介します。

1) 相続登記は早めに行うこと
相続時にやるべきこととして、多くの方が相続税の申告・納税や家財の処分などを行いますが、相続登記については手続きが面倒なため先送りにしがちです。しかし間を置かず早めに手続することをお勧めします。前述の通り法律改正により罰則が適用されることもありますが、放置しておくと登記自体はそのままですが、相続が子の代から孫の代と移ると、不動産の所有権が法定相続通りに孫の代へと自動的に継承されるためです。そうなると所有者の人数が増えたり、中には連絡先のわからない親族がいて、登記手続きが困難になるためです。

2) 身分証明書について理解しておくこと
登記は不動産という大切な財産の所有権を定めるものですから、相続人本人であることの公的証明書(公文書)が必要となります。日本の居住者であれば住民票や印鑑証明書で手続きできますが、非居住者の場合これらがありませんから、在留証明書や署名証明書が必要となる点を踏まえておきましょう。さらに日本大使館・領事館では日本国籍者しかこうした証明書は取得できないので、外国籍取得者はどうすればよいかあらかじめ法務局や専門家に確認し溶く必要があります。

本コラムの英訳版/English translated version of this Column

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

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