【ニューヨーク不動産最前線】売主必見!MLS利用のメリットと注意点

ニューヨーク市には、一般的に知られているMLS(Multiple Listing Service)はありません。その代わりに、REBNY(ニューヨーク不動産協会)が、他の地域におけるMLSに近い役割を果たしています。REBNYは全米不動産業者協会(NAR)のルールに基づき、売主から物件の売却依頼を受けたエージェントに48時間以内に物件を登録し公開するよう義務付けています。

MLSに物件を掲載することで、売主は効率よくマーケティングを進められ早く売れるチャンスが広がるというメリットがありますが、同時にリスクも存在するため、そこも知っておくことが大切です。

主なリスクは以下の通りです。

  1. 日数と価格の公開
    MLSに載せると、市場に出ている日数や価格変動がすぐに記録され公開されます。そのため、買主が「売主が焦っているのかな?」とか「何か問題があるのかも」と誤解してしまい、最終的に価格が下がることもあります。
  2. 問い合わせの転送
    多くのサイトに物件の情報や写真が広がる一方で、買主からの問い合わせが必ずしも売主のエージェントに届かず、他のエージェントに転送されることになります。そうなると、物件に詳しくないエージェントが対応することになり、買主にとっても不都合です。また、一度インターネットに公開された情報は削除するのがほぼ不可能で、犯罪リスクも高まる恐れがあります。
  3. データの商業利用
    多くのMLSは営利目的の企業で、売主のデータを連邦機関や金融機関などに販売しています。このプロセスについて、売主やエージェントがすべてを把握するのは難しいのが現状です。

売主には、MLSに物件を載せることで生じるリスクや、データの利用方法について知る権利がありますが、現時点ではそれらの情報を十分に得られる機会が少ない状況です。それでも、多くの売主は、できるだけ多くの人に物件を見てもらい、早く良い条件で売るために、MLSを活用しています。しかし、掲載にはリスクもあることを忘れないようにしましょう。

ちなみに、売主の中には広告を控えめにしてひっそりと売却したいと考えるケースもあります。それでも、MLSに載せる場合は48時間以内に一般公開する義務が発生します。

MLSは売主にも買主にも便利で必要なシステムです。ただ、現行のルールの中には双方にとって不利に働く要素もあります。業界ではこうした問題点を改善し、もっと売主・買主に優しいシステムにしていこうという動きも進んでいます。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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