なるほど!海外居住者が行う日本の親の相続手続~②日本の税金の申告・納税手続〜

 日本に住む親が亡くなると、法事、親の残した財産整理と相続税、残された遺族間での協議などいろいろな手続きが必要になります。これまで当コラムにおいても相続に関連する手続きについて紹介したものがありますので、以下ご案内します。お時間のある方はご参照ください。

相続に際し、相続財産の調査・特定と日本での相続税申告が重要であることは言うまでもありませんが、今回はそれ以外でも考慮しなければならない税金ついても紹介します。遠く離れた日本で突然に相続手続きが必要となった場合に備えて、必要な手続きの概要(申告者、期限など)のみ紹介します。それぞれの手続きの詳細(税金申告方法、提出書類、期限、税額算出、など)についてはここでは紹介しませんので、個別に弊社または専門家にお問い合わせください。

相続後に考慮すべき税金とは?

被相続人(亡くなった人)の財産の内容によりますが、一般的には次の点について考慮します。

  1. 相続税
  2. 準確定申告
  3. 関連する税金(財産を処分する際の税金)

1.相続税の申告・納税
まずは被相続人の保有財産(負債を含む)をすべて見つけ出すことから始めます。保有財産が現金だけでその所在や額がわかっている、遺言書(Living Will)がない、などの場合はスムーズな手続きが可能ですが、実際は現金以外の財産があったり、その所在・保管場所、金額(価値、評価額)が明確でないケースが多く、すべて調べる必要があります。また遺言書が存在する場合は、遺言書で指定された相続人と法定相続人の合意を得るなど一定の手続きが必要なため時間がかかります。ただし申告・納税には期限があります。こうした作業がうまく進まないとあっという間に期限が来てしまうので、財産の内容が判明したものから現金化し(銀行の口座解約、有価証券の売却など)、さらに時間がかかるようであれば、判明した財産だけで一旦相続税申告を行うなどの方法を取ります。申告期限の延長申立てや、期限後の修正申告も可能です。(但し延滞税がかかる場合あり)

税理士や相続コーディネータなどの専門家に依頼すると、そのあたりの進め方もアドバイスしてもらえます。※1

1) 期限
相続が発生した日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内です。財産内容の調査や、相続人同士の合意が取れないなど時間がかかる場合は期限の延長の申立てなども可能です。

2) 申告者と申告先
日本では米国などと異なり相続税は相続人に発生します(米国などでは被相続人に発生)。ただし、実際の申告手続きは相続人(配偶者や子など)自身が行います。相続人が複数いればそれぞれが個別に申告しますが、申告書には相続人全員の相続額を記載するので、相続人の代表者が全員分をまとめて国税局に申告・納税(国税局への支払い)するのが一般的です。なお、実際の提出先は相続が発生した場所(被相続人の住所)の所轄の税務署になりますが、税理士などの専門家に依頼するとオンライン(電子申告)で手続きしてくれます。

3) 申告・納税が必要なケース
相続税の申告・納税は相続財産があればすべての財産(金額)に対して発生するわけではなく、その額が一定額を超えるとその分に対して発生します。具体的には、「3,000万円+法制相続人の数×600万円」となります。この額までは非課税となりますので、すべての財産の合計額がこれを超えていなければ申告は不要です。ただし、負債があったり、現金以外の財産の評価方法がわかりづらかったりするので専門家のアドバイスが必要になります。

2.準確定申告
被相続人のその年の1月1日から死亡した日までの期間の確定申告のことです。税理士などの専門家に依頼しないケースでは、意外と忘れがちなので注意が必要です。

1) 期限
相続が発生した日の翌日から4カ月以内。

2) 申告者と申告先
相続人、遺族などが行い、各地の税務署に提出(オンラインも可能)

3) 申告・納税が必要なケース
通常の確定申告と同じ(一定の所得がある、税優遇措置などを申告する、などの場合)

3.関連する税金(財産を処分する際の税金)
相続財産の所有権は被相続人のため相続税の対象になりますが、たとえば不動産など現金以外のもので相続人が引き継ぐものについては相続登記(名義を親から相続人に変更)が必要となります。つまり、今まで被相続人の財産だったものが相続人の財産に変わります。そうなると、この不動産に関わる税金は今後名義人である相続人が手続きすることになります。具体的には毎年の固定資産税支払や、売却時や貸出時の確定申告(譲渡税、事業税など)が発生します。

1) 期限
・固定資産税:毎年5月末日。その後分割納付も可能。
・確定申告:日本では2月15日~3月15日が申告時期となります。外国とは時期が異なるので注意が必要です。

2) 申告者と申告先
・固定資産税:その年の1月1日時点の名義人。地方自治体の税徴収課から納付書(請求書)が郵送されるので、期日までに銀行やコンビニで支払います。
・確定申告:税務上の日本居住者および日本で所得のあった海外居住者など。日本にある不動産を売却した海外居住者も対象になります。

3) 申告・納税が必要なケース
・固定資産税:不動産(土地、建物)を保有している場合。古い建物は財産価値がなく対象とならない場合もあります。
・確定申告:一定の所得がある、税優遇措置などを申告する、などの場合

海外居住者が知っておきたいポイント

  • 親の財産が日本にあり、相続人が海外居住者の場合、日本と居住国の両方で申告が必要となることがあります。日本は米国をはじめいくつかの主要国と2国間での相続税条約を締結しており、相続税の二重払いにならないよう税額控除申請が可能です。詳細は専門家の方にご相談ください。
  • 親が自分と一緒に日本国外に居住している、親または自分が外国籍を取得しているなどの場合は、日本の相続税法ではなく居住国の相続税法に準拠することになります。このあたりの判断は難しく、場合によっては相続専門の弁護士などに相談することもあります。
  • 相続登記を行い、名義が海外居住者となった日本の不動産を売却する場合、売却先によっては売却時に源泉徴収(あらかじめ税金を払うこと)が発生する場合があります。この場合翌年の確定申告時に還付(返金)請求などの手続きが必要になることもありますので注意が必要です。

いかがでしょうか?いつも皆様にアドバイスしているのですが、こうした複雑な専門手続きは、まず全体の流れを理解し、各手続きについてはそれぞれに詳しい専門家に相談しながら進めるのが成功の秘訣となります。

<備考>
※1:日本では特定資格者(会計士、税理士、弁護士)のみ税務申告の代行が可能です(相続人本人の申請は可能)。

本コラムの英訳版/English translated version of this Column

http://www.life-mates.jp/Eng_Column2

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、介護・葬儀・相続など日本在住の老親のサポート)を行う。

●豊富な実績に基づくていねいなサポートで
ひっきりなしに持ち込まれるお客様からの国際手続きに関する多種多様なご依頼、ご相談(お悩み)を断り切れず休日返上で対応しているうちに、気がつけば(年金、日本帰国といった当初の事業以外の)あらゆる分野のノウハウを備えたオールラウンドコンサルタントに。当社で対応できないケースでも、的確な解決方法や提携先の他分野専門家を紹介します。

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