第54回 多人種社会

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 2017年1月、トランプ氏がアメリカ合衆国の大統領に就任した。彼は難民や移民の受け入れ審査を強化し、メキシコ移民を阻むために国境に壁を建設する大統領令に署名した。しかし、もともとアメリカは移民で成り立っている国であり、数百年前に遡らずとも、我が家も含め、ニナの友人も親の世代で外国から移住してきたケースが少なくない。

高校進学で道が分かれてしまったけれど、中学の時のニナの親友サマンサはメキシコ系だった。父親はメキシコ料理のシェフ。また同じ高校に進んだサーラは両親がパキスタン人だ。母親は今はやりの眉のスレッディングサロンを経営している。そして、宗教上の理由でベジタリアンであるサーラを食事に連れていく時は大抵ピザだ。トッピングを野菜だけにすればいい。

そういう異なった文化的背景を持つ友人をニナが持つことに、私は常にエキサイトする。ライターという職業柄と子どもの頃から世界地図を見るのが好きだったからか、「その人がどこからどういう理由で移住してきて、アメリカでどういう生活をしているのか」が聞きたくて堪らない。好奇心の虫が騒ぐ。多様なバックグラウンドを持つ人と知り合えることこそ、アメリカに住む醍醐味ではないかと信じている。だから、新しい友達の名前がニナの口から出るたび、「何人(ナニジン)?」とついつい聞いてしまう。そして、ニナの答えはいつもこうだ。「そういうことをズケズケ聞くのって失礼だと思うわ」と前置きをした上で、私が諦めないのを知っているので「●●だよ」と続く。

皆、カリフォルニア人

アジア系の友人は、親が一世のケースが多く、インド、フィリピン、韓国、中国、日本などと出身国がすぐわかる。一方、白人の場合は移住して時間が経っているせいか、ニナにいつものように「ナニジン?」と聞いた後に「ホワイト」と言われると、すぐさま「何系の白人?」と突っ込む私に「わからない。でも彼のお母さんは何カ国語も喋るらしい」とヒントにもならないような返事が返ってくる。

結局、ニナにとっては友達が何人(ほとんどの場合アメリカ市民だろうから、何人、と言うよりも何系アメリカ人が正しいのだろう)だろうが、友達であることに変わりない。ルーツにまで関心はない。しかし、一旦、何系だかを把握すると私が間違えると即訂正する。例えばランチタイムにLINEで、「今日はアーマンと一緒に食べてる」とニナが送ってきた時、私が「おお、インド人の」と返したら「バングラディッシュだよ。間違えたら失礼だよ」と言ってきた。彼女にとって私は「かなり失礼な」母親のようだ。

それでも、毎年恒例の学校でのレジストレーションの質問には親が何系であるかを聞く項目がある。両親ともに日本から来た我が家の場合、「JAPAN」にチェックするわけだが、選択肢として「OKINAWA」が別に立てられていることを発見した時は非常に興味深かった。それだけ沖縄からの移民は突出して多いということだろう。

さて、先日、ロサンゼルスは記録的な暴風雨に見舞われた。学校から帰ったニナがこんな話をしてくれた。「今日の保健の授業の時、先生の話を聞かないで皆、窓の外の雨と風に揺れる木を見てたの。先生が『集中しなさい』って言ったら、ある男の子が『だって僕たち、皆、カリフォルニア人(We are all Californians)だから雨が珍しいんですよ』って言って大爆笑になったの」。確かにそうだ。笑った後、どこかほのぼのとした気持ちになった。子どもたちのルーツがどこにあっても、今は同じ学校で机を並べるカリフォルニア人なのだ。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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