物流を制すものはビジネスを制すか?
第21回
- 2019年5月23日
経済力をつけていく日本
前回、日本およびアジアから太平洋を渡る北米航路の開設と、北米運賃同盟の発足について述べた。
クローズド・コンファレンスと呼ばれた欧州運賃同盟に対して、オープン・コンファレンスといわれる北米運賃同盟。欧州運賃同盟より遅れて発足した北米運賃同盟は、イギリスを中心とする欧州の海運企業が地理的な条件で参入が難しく、同盟としての拘束力が弱いといわれた。スペイン、イギリス、フランス、ドイツなど、欧州の各国が植民地政策で世界に自国領を広げ、そこからの産物を輸送するモデルが出来上がっていた欧州運賃同盟に対して、イギリスからの独立を経て、南北戦争の騒乱に明け暮れた米国は、欧州の他国の後塵を廃することが多い。
米国が海上輸送の表舞台に登場するのは、日本がまだ江戸といわれた1800年の後半である。アジアに触手を伸ばしたい米国は日本に開国を迫るだけでなく、日本を燃料や食料の補給基地として位置づけ、ここからアジアの地域に販路を開いて行こうとしていた。明治維新の発端になったといわれる米国艦隊ペリーの来港は、米国がほかの欧州各国と伍して行くうえで必要な行動であった。
明治維新以後、開国と同時に富国強兵を国是とする日本は、欧米列強に負けない軍事力、経済力を高めることに全力を上げていった。日本は経済力の向上とともに貿易力も徐々に力をつけ、米国との間では、生糸を中心に大きな貿易、海上輸送が生まれていった。
前述の通り、北米運賃同盟は1900年初頭には結成されていたが、二度にわたる世界大戦、特に日米の太平洋戦争の影響もあり、北米航路は欧州航路ほどの実績を上げるに至らなかった。しかし、戦後の経済復興や朝鮮戦争の特需で日本が経済的に大きく経済力をつけていくと、日本から米国への輸出が盛んになっていった。戦勝国であるアメリカは、日本やアジアからの製品を購入するに十分な資金的な余力があった。また、為替も1ドル360円という固定相場で、日本の製品は安く購入できたことで、日本から米国への輸出は急激に拡大していった。
FMCの設立
北米運賃同盟も充分に機能するようになっていく。米国がオープン・コンファレンスを標榜する理由の一つに、米国の利益を最優先するために米国に入船する船社を管理監督する、というものがあった。北米運賃同盟の機能が正常に働いているか、米国に不利益をもたらす動きがないか、こうした状況を監視する役務として設立されたのが、米国連邦海事委員会(フェデラル・マリタイム・コミッション)通称FMCといわれる米国の政府機関である。
FMCは米国の運輸省の中に置かれ、米国の安全保証を補完するため配備している国防予備戦隊の運用と管理を行っている。ゆえにその代表は大統領から直接任命される。FMCの前身である米国海事委員会が1950年の5月24日に設立され、その後組織の変更や規約の変更などを経て、1961年に連邦海事委員会として再編された。
FMCの主な業務は、米国の港に入港するすべての船社が適正な業態で運航されているかを見極めるため、登録やファイリング等さまざまな手続きを通じて監視、管理を行うことだ。船社に限らず、港で作業を行うターミナル企業や、国内外を問わず港を経由する船社には、運賃や輸送条件などを登録するよう義務づけている。
とりわけレーガン大統領時代、輸送の規制緩和を進めるうえで、海上法が改定されて以降、従来の船社(船を所有し運航する企業)だけでなく、複合一貫輸送業社(船を保有せずに輸送責任を負い、輸送を履行する企業)、通常NVOCCと呼ばれる企業が数多く誕生。このNVOCCという新業態もFMCの管理の対象となり、FMCへの登録とファイリングが義務つけられている。
欧州運賃同盟は、同盟運賃といわれる、船社が設定した運賃を荷主が適用する形式になっていた。北米運賃同盟も同じように、同盟が設定した運賃を荷主が適用し、運航されていた。しかし、以前に述べたように同盟に加入しない盟外船社といわれる一群の台頭により、運賃競争が生まれ、結果として欧州運賃同盟は消滅した。
北米運賃同盟はもともとが拘束力が弱い緩やかな集合体であったことから、同盟内部にあっても運賃設定は船社によって差が生まれていた。FMCは自由競争という建前から、船社と荷主間の運賃設定については一定の距離をおき、介在はしないようにしていた。ただし、荷主と船社が決めた運賃に関しては、FMCへのファイリング義務を強化したのだ。
一時期、ファイリングが公にされ、どの船社がどの荷主といくらの運賃で契約をしたのかを
閲覧できた時があった。またその後、業界では「ミーツーファイリング(me too filing)」と呼ばれた不思議なファイリングが行われていった。
次回、さらに詳しく述べたい。
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