電気自動車(EV)への移行が進む中、自動車メーカーは消費者の充電インフラ不安に対応するため航続距離の延長を重視してきたが、電池メーカーはすでに、より小型でより長持ちし、より安価でより速く充電できる未来の電池の研究に目を向けている。
■充電所増えれば大型電池は不要
ロイター通信によると、自動車メーカーは現在、先行するテスラを追って航続距離300マイル(482キロ)以上のEV生産を目指しているが、EV電池の新興企業は「公共EV充電器がどこにでもある状況になれば航続距離はさほど重要ではなくなる」と予想。急速充電が可能な小型電池を求めて、シリコン・カーボン、タングステン、ニオブなどの新素材を試している。
電池はEVの部品の中で最も高価であり、急速充電と充電器の普及が実現すれば、メーカーはより手頃な価格で小型電池搭載車を製造でき、より幅広い消費者層に販売して利益を上げられる。電池を小型化すれば、電池材料のボトルネック(局所渋滞)が解消される可能性があり、中国が精製・加工を独占しているコバルトやニッケルの使用量も減らせる。また自動車メーカーは、有害な材料を使わず、EV製造に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を減らすことで、事業の持続可能性も強調できる。
■急速充電を実現する新素材
英国のナイオボルト(Nyobolt)やエキオン・テクノロジーズ(EchionTechnologies)などの新興電池企業は、鉄の強化などに使われる安定したレアメタル(希少金属)ニオブを正極や負極に使うことで、超急速充電に対応しつつ、現在の電池よりも何年も長持ちさせることが可能と見ており、エキオンは25年までに電動乗用車用の電池を開発することを目指している。
ニオブの生産大手であるブラジルのCBMMも、エキオンなどの新興企業に投資し、他社と共にニオブを使った電池のテストにも取り組んでいる。CBMMの電池プログラム責任者は「ニオブのエネルギー密度は最近の電池より最大20%低いが、数分で充電でき、3倍から10倍の寿命と安全性をもたらす。電池の生産では原材料がボトルネックとなる見込みで、人々は近い将来、なぜ大きな電池パックが必要なのか疑問に感じるようになる」と見ている。
一方、ワシントン州の電池メーカー、グループ14テクノロジーズは、リチウムイオン電池の容量を最大50%増やせるシリコンとカーボンの複合体を使った負極材を作っており、メルセデスベンツが出資する電池メーカーのストアドット(StoreDot、イスラエル)は、この素材を使って10分で電池の容量80%まで充電することに成功した。
グループ14のリック・ルービーCEOは、同社の負極材は5分でEVを充電できる可能性があり「5分や10分で電池パックを満タンにできれば、航続距離が150マイルだろうが300マイルだろうがあまり関係ない」と話している。
また、ミシガン州の電池メーカー、アワ・ネクスト・エナジー(ONE)は、標準的なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池に、より高度で高価な化学物質を使った第2の航続距離延長用(レンジエクステンダー)電池を加えた「ジェミナイ(Gemini)」電池を開発して、短・中・長距離の走行オプションを提供している。ムジーブ・イジャズCEOは「最終的には市場が適切な航続距離レベルを決定する」と話した。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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