シェール・ガスが米国にもたらすもの【全4回連載の最終回】

 ジェトロ・ヒューストン事務所の木村誠氏と島田亜希氏の寄稿に基づき、4回の連載で掲載している本稿第1回目では、シェール・ガスの増産によって米産業界のコスト競争力が大幅に強まる点を考察し、連載2回目は、シェール・ガスによって天然ガス車の導入が促進される点に言及し、連載3回目では、米国政府による天然ガス輸出許可の行方を追った。最終回の今回、北米産シェール・ガスの開発で韓国勢が追い上げている昨今の動向に焦点を合わせる。

▽「オール・コリア」方式

 韓国は国営の石油公社やガス公社が国外のガス田を開発し、韓国企業が液化施設を建設、さらに自国で建造した液化天然ガス(LNG)船で輸送を行うという、開発から調達までの一貫した「オール・コリア」方式でビジネス展開を目指している。

 韓国は米国と自由貿易協定(FTA)をすでに締結しており、米国政府による新規のLNG輸出承認については、日本と比べて制度面でも障壁が少ない。

▽シェール・ガス比を7%から20%に

 韓国の知識経済部は2012年9月、2017年から米国およびカナダ産のシェール・ガスの導入を開始し、天然ガスの輸入に占めるシェール・ガスの比率を2017年の7%から2020年には20%(年800万トン)に増やす「シェール・ガス開発・導入活用戦略」を発表した。

 エネルギー消費の97%以上を輸入に依存する韓国にとって、調達先の多様化と、国内価格の安定化は急務だ。

▽マーベリック盆地鉱区で3割の権益を取得

 韓国石油公社(KNOC)は2011年3月、テキサス州イーグルフォードで米国の独立系石油ガス会社アナダルコが取り組んでいるマーベリック盆地鉱区に15億5000万ドル(1エイカーあたり1万6000ドル)で資本参加し、3割の権益を取得した。1エイカーは約4047平方メートル。

 同鉱区で生産可能なシェール・ガスは石油換算で1億5000万バレルが見込まれる。

 KNOCは、石油ガスの集積施設についてもアナダルコと合弁を組む。

▽現行価格より3割安くなる

 また、韓国ガス公社(KOGAS)は2012年1月、メキシコ湾のサビーン・パスでLNG基地を運営する米シェニエールとの間で、2017年から2020年にLNGを年間350万トン輸入する長期契約を結んだ。

 米韓FTAの発効を受けて、シェニエールは米国政府から韓国向けのLNGの輸出承認をすでに得ている。

 FOB価格は「ヘンリーハブ渡しx115%+液化費用」となり、それに「韓国までの輸送費を加えても、調達価格は現行の国内価格より3割安くなる」(知識経済部チョ・ソク副次官)と計算だ。

▽購買力の強さ

 シェニエールから韓国が輸入する天然ガスは、韓国国内消費量の10%を超える。KOGASは天然ガスの世界最大規模の買い主で、購買力が高く、日本勢にとって手ごわい競争相手だ。

 KOGASはさらに最近、LNGの買い主だけにとどまらず、上流事業権益の獲得にも積極的に動いており、天然ガス事業で垂直型のビジネス・モデルを目指している。

 それに加えて、韓国のLNG企業E1(旧LGカルテックス・ガス)は2014年にも、米国から液化石油ガス(LPG)18万トンを輸入する予定。

 同社はLPGの8割を中東からの輸入に依存しており、調達先の多様化が最大の目的だ。

▽造船業界にも波及効果

 シェール・ガスの周辺ビジネスでも韓国勢の動きは活発化している。

 韓国産業研究院(KIET)は2012年8月、「シェール・ガス開発ブームが韓国の産業に与える影響」と題する報告書を発表し、そのなかでガスの採掘機や圧縮機といった採掘関連業種の需要が増えるとともに、LNG用船の需要が増えることで造船業界にも波及効果があるとみている。

▽業界見本市で商談を積極化

 韓国鉄鋼メーカーのポスコは2012年5月、石油ガス業界向け高級鋼管の販売強化のため、日系の総合商社が複数入居するヒューストン市内のビルにオフィスを構えた。

 ポスコは2012年に、毎年5月にヒューストンで開催されるオフショア石油・ガス業界最大の見本市オフショア・テクノロジー・カンファレンス(OTC)に関連企業25社とともに出展し、エクソンやシェブロンといった大手石油企業、ERPやKBRのようなエンジニアリング企業と精力的に商談を交わした。

▽サムスン、ヒューストン事業所を3人から111人に

 また、2007年に3人体制で始動したサムスン・エンジニアリングのヒューストン事業所は、2012年に入り人員を111人に増強している。

 サムスン・エンジニアリングは2011年に、シェール・ガス由来の石油化学製品を生産する米ダウ・ケミカルのテキサス新工場建設プロジェクトを4億ドルで受注したばかりだ。

▽敵か味方か

 北米シェール・ガス・ビジネスで先行する日本企業にとって、韓国勢は強力な競争相手になる可能性が高い。

 他方、「日韓はシェール開発に向けた共同案件の取り組み、北米産LNG購入で重なり合う部分も多く、企業間協力の可能性も秘めている」(日系商社)といった声もある。

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