米小売業界では昨今、同業界にとって禁断の技術ともいえる顔認識の活用に踏み切る小売会社が増えている。米国は、顔認識技術についてプライバシー侵害や悪用の恐れを危険視し、警察や公的機関による活用を禁止する法律を定める自治体も多い。しかし、盗難被害が深刻化する小売業界では、顔認識技術に防止策を求めている。
ディーラー・スコープ誌によると、2021年は小売店や物流網での盗難が多発した年だった。全米小売業協会(NRF)が行った調査によると、小売業者の7割が2021年に万引きや窃盗が増えた、と報告した。
連邦政府機関は1月に、ウォルマートやコスコ、CVS、GNCから総額2900万ドル以上の商品を盗んだ組織的窃盗の疑いで29人を起訴したばかりだ。その容疑者らは、実在店舗群から盗んだ商品をアマゾンやイーベイ、そのほかのオンラインいちばで転売して荒稼ぎした。
小売業界リーダース協会(Retail Industry Leaders Association)とバイ・セイフ・アメリカン連合(Buy Safe America Coalition)によると、2021年の盗難被害額は、小売店総売上高の1.5%に相当する690億ドルに上った。犯行手口が組織的かつ大規模化、そして巧妙化している。また、小売現場ではなく、配送センターを中心とした物流網の途中段階での大量窃盗も多い。
小売会社らは、既存の店舗内防犯カメラと顔認識技術、人工知能技術を統合し、抑止力の拡大を図っている。
顔認証技術を提供する新興企業フェイスファースト(FaceFirst)によると、同社の技術は米国内の小売大手の約25%にすでに採用されている。同社のプラットフォームは、それら顧客会社のために1日あたり12兆件の顔を照合している。
ただ、それらの顧客会社らは、顔認識技術を導入していることを口外しない。消費者や消費者保護団体、人権擁護団体から攻撃され、消費者たちから不買運動を起こされることを恐れるためだ。
顔認識技術の精度には当初から疑問があり、性別や人種によって間違いが起こりやすいという問題が未解決のままだ。マイクロソフトのティムニット・ゲブル氏とマサチューセッツ工科大学のジョイ・ブオラムウィニ氏が行った研究によると、肌の色が白い男性では1%の誤差であるのに対し、肌の色が黒い女性をスキャンすると最大で35%の誤認が生じる顔認識ソフトウェアもある。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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