携帯電話サービス会社、お財布ケータイで苦戦 〜 新技術の台頭で普及せず
- 2014年4月4日
- ハイテク情報
携帯電話を使った支払いシステム(お財布ケータイ)で新たな利益源を確保しようとしていた米携帯電話サービス(キャリヤー)大手らは、新たに登場した決済システムの脅威に直面している。
AT&TやTモバイル、ベライゾン・ワイヤレスの大手キャリヤー3社は、お財布ケータイ・サービスの合弁事業「アイシス(Isis)」を設立し、2013年11月からサービスを提供している。スマートフォン経由での決済に対して、銀行やクレジット・カード会社から手数料を徴収するという狙いだ。
ところが、インベスターズ・ビジネス・デイリー紙によると、最近登場したソフトウェア技術「HCE(Host Card Emulation)」がアイシスの市場拡大を阻もうとしている。
アイシスが提供するシステムでは、顧客の支払い情報は全てSIMカードに保存される。情報は、個人のデジタル認証とともに保存されるため安全に決済できる仕組みだ。しかし、HCEはそれらの情報をクラウド電算環境で保存できるため、銀行やクレジット・カード会社は、キャリヤーを仲介せずに顧客の支払い情報をインターネット基盤プラットフォームで管理できるようになる。
また、企業によるHCEへの取り組みも加速化している。まず、クレジット・カード会社大手ビザとマスターカードは2月に、HCE基盤のプラットフォームに対応する計画を発表。さらにグーグルもアンドロイドOSの最新版「4.4」でHCEに対応した。
グーグルは以前から、独自の決済システム「グーグル・ウォレット」を提供してきたが、それを採用したキャリヤーはスプリントだけだった。アンドロイド4.4がHCEに対応したことで、スプリント以外の携帯電話サービス加入者もグーグル・ウォレットを使えるようになる。
それに対してアイシスでは、奨励策を打ち出して対抗している。ベライゾンでは、アイシスをダウンロードしてアメックス口座を開設する利用者に10ドルを提供し、最初の支払い時にさらに10ドルを追加提供する。
しかし、アイシスの普及はいまのところ鈍い。調査会社ヤンキー・グループによると、調査回答者のうちアイシスを使っている割合はわずか0.3%だった。一方、業界で最も普及しているペイパルのモバイル決済利用者は15.5%に達している。
さらに、キャリヤーにとって大きな課題となっているのが、アップルの存在だ。アップルのアイフォーン(iPhone)は、アイシスで必要不可欠となる近距離無線通信(NFC)チップを搭載していない。
モルガン・スタンリーの見積もりによると、大手キャリヤー3社の後払いサービス加入者数約1億2500万人のうち、NFCチップ搭載機種を利用しているのはわずかに15%だ。米国ではアイフォーンの普及率が非常に高いことがその背景にある。
アップルは今のところ、独自の決済サービスを提供していないが、早かれ遅かれ同市場に参入するとみられる。同社の強力な武器は、世界に散らばる5億7500万人のアイチューンズ(iTunes)利用者のデータベースだ。同社がお財布ケータイ市場に参入すれば、それだけで市場に大きな変化をもたらすことになる。
一方、60社の小売企業で構成される業界団体のMCXは、モバイル決済プラットフォームとしてクラウド・サービスのペイディアント(Paydiant)を採用した。同団体には、ウォルマートやベスト・バイ、シアーズといった大手が名を連ねており、その動きもアイシスを揺さぶる脅威となる可能性がある。
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