[敬老・売却問題] 新局面! 司法長官「売却撤回せず」、反対派「断固阻止」で11月下旬タウンホール開催へ

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 ロサンゼルスの非営利団体「敬老シニアヘルスケア」(通称「Keiro」)の施設売却をめぐって、地元日系コミュニティーの一部が猛反対している問題が、新たな局面を迎えている。

 売却阻止をめざす有志でつくる「敬老を守る会」(Save Keiro、ジョン・カジ代表)は、カマラ・ハリス・カリフォルニア州司法長官に売却承認を撤回するよう求めてきた。これに対し、ハリス司法長官が11月5日、書面を通じて回答。「売却承認は撤回せず、売却の延期もしない」と通達した。

タニア・イバニエス司法長官補佐から、「敬老を守る会」にあてて届いた書簡 Photo © Mirei Sato

タニア・イバネス司法長官補佐から、「敬老を守る会」にあてて届いた書簡
Photo © Mirei Sato

 守る会は、敬老の経営陣がとった売却決定までのプロセスが不透明で、コミュニティーに対する説明も不十分、納得できるものではないなどとして、非営利団体の売却を監督する立場にあるハリス司法長官に訴えていた。コミュニティーが敬老についての詳しい説明を受けられるよう、司法長官主催の公聴会を開くことも要請していた。
 反対運動は盛り上がりを見せ、賛同する署名もすでに約7500人分が集まった。11月にはいって、ジュディー・チュー下院議員(民主)ら、カリフォルニア州選出の16人の連邦下院議員の支援も得たところだった。

 しかし、こうした動きに水を差すように、タニア・イバネス州司法長官補佐の名前で、「守る会」のチャールズ・井川氏あてにEメールで、「NO」を告げる書簡が送られてきた。

 「敬老から売却の意思と計画を受け取り、すでに9月2日に調査を終えた。敬老が提出した2000ページ以上におよぶ資料によると、過去2年にわたって60回のコミュニティー・ミーティングを開いている。イベントやワークショップ、メールや出版物を通して、敬老は、英語と日本語の両方で、入居者とその家族らに説明を尽くした」

 これらを根拠に、司法長官は、敬老が営利団体パシフィカ社へ身売りすることは、「公平で合理的である」と判断した。従って、売却を延期することはせず、承認を法的に取り消すこともできない、というのが通達の内容だ。

 敬老の入居者が抱く将来への不安を解消するために、「売却から5年間はメディカルとメディケアが使い続けられるように保証する」といった、すでに公表されている「条件」も、書簡の中で繰り返した。

 一方で、日本文化に特化したケアの重要性や、敬老が日系社会にとっての大切な遺産であることは認識した、と述べ、それらを守るために、「コミュニティー諮問委員会をつくって、日系社会の代表がそこに参加し、新オーナーが勝手にプログラムを変えられないようにする」こと、さらには、「諮問委員会のメンバーのうち3人は『敬老を守る会』から任命する」という、妥協案ともとれる提案を含めてきた。

 敬老の売却を阻止するためには司法長官の協力がなければならないため、この通達は反対運動にとっては、大きな揺り戻しとも受け取れる。

 しかし、守る会の井川氏は、「司法長官の返事は『想定内』だった」と話す。「長官の立場はわかったが、私たちはそれを最終の解決ラインとは見ていない。私たちの目標は売却を阻止することで、署名も引き続き集めるし、あらゆる手段で運動を続けていくつもりだ」

 「司法長官が売却を承認した根拠としている敬老が用意した資料には、疑問点がたくさんある。公聴会を開かないということは、それら疑問点を明らかにしないまま売却が進むということで、それは私たちとしては受け入れられない」

 守る会は、11月7日にリトル東京でミーティングを開いた。核となるメンバー約50人が集まって、今後の対応策や運動の方針を話し合った。

 その結果、11月下旬、サンクスギビングの連休にはいる前に、リトル東京周辺で、守る会主催の「タウンホール・ミーティング」を開くことを決定した。ハリス司法長官および司法省の担当者を招き、敬老シニアヘルスケアのショーン・ミヤケ社長兼最高責任者をはじめ経営陣の出席を要請する。

 守る会のリクエストを受けて、10月15日に敬老が主催した数百人が集まる大規模な集会があったが、議題は敬老のペースで進んだ。質疑応答の時間も十分ではなく、参加者には不満ばかりが残った、という経緯がある。

 そのため今回のタウンホールは、守る会のメンバーが司会進行する。敬老が司法省に提出した2000ページの資料を分析して、疑問を洗い出し、ひとつずつ問いただしていくという。
 たとえば、敬老がバシフィカと合意した売却値は「4100万ドル」だが、これは時価からすると低く見積もりすぎだという指摘がある。近年、急激なジェントリフィケーション(大型再開発)が進むダウンタウンから近い場所にある物件を含むディールとしては安すぎるのではないか、という疑問だ。
 また、守る会は、敬老側がコミュニティーに対して、パシフィカへの売却の経緯を何度も告知し十分に説明した、という主張にも大きな疑念を抱いている。

 タウンホール・ミーティングは、入場無料で、誰でも参加できるものにするという。日時と会場は、近日中に決定、発表される。

⚫︎売却反対の署名ウェブサイト

savekeiro.org(英語)
jp.savekeiro.org(日本語)
Change.org(*守る会のウェブサイトからリンクされている)

*賛同して署名するのは、ロサンゼルス在住者でなくても構わない。名前など必要な事項さえ記入すれば、ほかの州や日本に在住でも構わない
*守る会の署名活動は、敬老の売却中止が決まるまで続く

⚫︎敬老がウェブサイトで公開している、売却に関する経緯など

www.keiro.org/updates

敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」

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佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

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