第39回 明日はわが身かホームレス

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

 ロサンゼルスの下町に我々がリトル東京とよんでいる日本人コミュニティーがある。20 世紀初頭に渡米した最初の日本人移民たちが住んだ古いビルも残されているから、当時の苦難の歴史が偲ばれる。その隣はホームレスの人たちがたむろするスキッドローエリア。そこを通るサンペドロ通りは隣接の花、ファッション、宝石などの各問屋が密集する商業エリアにつながる。ジェイウオークがしばしば起こるのでできれば避けたい通りだが便利な幹線で、いつも、ああ、しまった、と思いながら運転することになる。両側に人があふれ、車道にもこぼれてくる。車の速度を落とし、注意して走る。沢山の光景も目に入る。

 一昔前は見慣れたダンボール箱に住んでいる人が多かったが、ある時、キャンプ用テントが張ってあった。きっと誰かにもらったのだろう。同乗していた娘が、あれ、いいね、寄付をしたいならあのテントが機能的でいいんじゃない、と言った。そして最近通ると、同じテントが通りにずらりと並んでいる。誰かがいち早く寄付をしたのであろう。下はコンクリートだから勿論夜は冷えるが、ダンボールよりはましだろう。

 人々が集まる理由はここに食事を提供するミッションがあるからだ。その建物の入り口には幼い子供連れの人もランチを待っていた。人間一日一食、温かい食事をすれば何とか生きていけるのだろう。ホームレスの数はロス市で2万8千人、LAカウンティー4万7千人、カリフォルニア州は11万6千人という数字が出ているらしい。驚くべき数字だ。ホームレス生活が長くなると大部分の人が精神がおかしくなっているそうだ。当たり前だ。そんな状況で誰が正常でいられよう。希望がなくなったら精神は病む。そうしなければ体を生かし続けられない。正常であれば自分で自分の体を殺めてしまうだろう。

Photo © Chizuko Higuchi

Photo © Chizuko Higuchi

 最近、中流階層の住宅地でも、ごく普通の格好をした人が街角に立って物乞いする姿をしばしば見かける。そのまま上着を着れば会社に働きに行けそうな働き盛りの男性だ。子供を抱いた女性に手を出されたこともある。ついにここまで来たかと胸が痛む。

 不動産業に関わっているからリーマンショックも現場で体験した。新興住宅地の売り家を下見に行ったら、台所にはシリアルの箱と食器やスプーンが散らかり、家具もそのまま。クローゼットの中にはウエディングドレスが残っていた。モーゲージの支払いが何カ月か滞ると、何度かの警告の後にある日シェリフが来て、強制立ち退きを迫られる。慌てて子供に身支度をさせ、着の身着のままで家を出て行く家族の様子が目に浮かんだ。家族の思い出が散らかった部屋に漂っていた。別の事件では、失業し、経済的破綻をきたした夫が幼い子供2人と妻を道連れに、一家でピストル自殺したニュースが流れた。本人の責任とはいえ痛ましい事件があちこちで起こった。

 アメリカ人は3回ペイチェックがもらえなかったらホームレスになる、と言われてきた。それほど目一杯の生活をする。しかしリーマンショックを経験した後は人々の意識も変わり、身の丈以上の生活をする悪習慣をさけ、貯蓄するようになった。若い人は郊外に一軒家を持ち、通勤に長時間をかけ、高額なローンを払う生活を捨てる傾向にあるらしい。職場近くのコンドに住み、家族で過ごす時間を大切にしたいという。自分の価値観で生活スタイルを選択し始めている。

 テクノロジーの発展は便利だが、中間職を奪う負の側面ももたらした。銀行でも郵便局でもテラーが激減した。会社では事務員も秘書もいらない。コンピューターが処理してくれるから。労働の効率化は中間職を奪い、貧富の格差がますます広がっている。街頭に立つ人の姿に、帰る場所のない友を自分の家で引き受けられるだろうか、自分の窮状に部屋を提供してくれる友を自分は持っているだろうか、ふと、考える。他人ごとではない。せめて同情の心を紙幣にたくそうか。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう37年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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