「再生」がデトロイトのテーマなのだとすれば、「ハイデルバーグ・プロジェクト」ほど、それを地でいくところはない。
ダウンタウンから東へ数マイル走ると突如現れる。水玉模様の家、ぬいぐるみがぶら下がった木、山積みになったカラフルな靴、焦げたオーブン、芝生に埋まったポンコツ車、ショッピングカート、割れたレコード…。ありとあらゆるジャンクを再利用した、「屋外美術館」が、数ブロックに渡って続く。
ハイデルバーグ・ストリートとその周辺は、デトロイトでも最も古い黒人居住区だ。マルコムXとキング牧師が暗殺されて、変わらぬ貧困や警察の暴力に、全米の街が黒人の怒りで燃えた60年代後半。デトロイトでも暴動が起きた。それ以来、開発から見放され、空き家が増えたハイデルバーグを、住人の一人、タイリーさんが変えた。日常生活にあふれている物、ゴミにしか見えないものを集めて、アートに作り替えた。空き家や空き地、芝生とコンクリートが、キャンバスだ。今やデトロイトで5本の指に入る観光地になった。毎年27万人もが訪れる。
一見奇妙でへんてこなものに、意味がある。たとえば、土に半分埋まった車やタイヤは、「自動車産業の終わり」。ショッピングカートは、無駄の象徴。随所にあるタクシーのサインは、「私たちはこれからどこへ向かうのか」という疑問。
20年前、たまたま車で通りかかって虜になり、今はタイリーさんの妻でもあるジニーンさんは、「『ゴミを芸術と呼べるのか』と批判を受けることもある」と話す。「でも、見捨てられた街、都市の下層で生きる人たちにとって、リサイクルアートはすごく重要なメタファーなのよ。覚悟を決めてやり直す、人生を組み立て直す、『変われるんだ』というパワーね」
ハイデルバーグがあるイーストサイド地区では、菜園や農園を通じてコミュニティーの再生に取り組む人たちもいる。「アース・ワークス」のシェーンさんは、「都市農園なんていうと最近の流行のように聞こえるけど、デトロイトでは(1929年の)大恐慌の時から始まっている。人がいなくなって空き地が沢山できたからね。ここ10年でデトロイトの人口は25万人も減った。特に金融危機の直後は凄まじかった。仕事を失えば家族を養えなくなる。家を失うってことは、食卓を失うことでしょう。だから空き地を菜園に再利用して、食べるという基本的な人権を回復しているんだ」と話してくれた。ホームレスのための食堂を併設し、収穫したものを提供している。
人気レストラン「ラッセルストリート・デリ」のオーナー、ジェイソンさんは、デトロイトに幾つもある都市農園から野菜や果物を仕入れ、フードバンクにも協力している。「ぼくもデトロイト生まれだけど、ここの住人の気質を一言で表せば、タフということになるかな。まず、気候が心も体も頑丈にするよね」
南北をエリー湖とヒューロン湖に挟まれ、デトロイト・リバーを背に高層ビルと空き家が並ぶのだから、冬に吹き抜ける風の冷たさは相当だろう。
「デトロイトは甦るよ。半世紀近くかかっているから進み具合はゆっくりだけど、確実にね」。ジェイソンさんはそう言って微笑んだ。
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