シリーズアメリカ再発見⑧ 高みへ!
ユタ 国立公園の聖域を訪ねて

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

墓場か寺院か要塞か…。見る人のイマジネーションをかきたてるブライスキャニオン。雪をかぶった冬景色も、捨てがたい味わいがある Photo © Mirei Sato

墓場か寺院か要塞か…。見る人のイマジネーションをかきたてるブライスキャニオン。雪をかぶった冬景色も、捨てがたい味わいがある
Photo © Mirei Sato

 
DAY 4
 キャピトルリーフからブライスキャニオンへ向かう12号線は「All-American Scenic Byway」に認定されていて、アメリカでもトップの美しい景観を誇る。ここのドライブは、今回の旅のハイライトの一つだ。

 ディキシー国有林に入ると、標高が上がるのに伴ってアスペンの葉が黄色くなっていく。

 ボルダーの町を過ぎたあたりは、アナサジ州立公園博物館になっている。この一帯には12世紀までアナサジ族と呼ばれる先住民が住んでいて、遺跡がいくつか見つかっている。彼らの歴史にはまだ謎が多く、約2000年前にカリフォルニアに渡った日本人が先祖だという説もあるそうだ。

 グランドステアケース・エスカランテ国定公園に入ると、車窓の両サイドに、何層にも重なったケーキに似た岩が続く。白と赤の土に斜めにさっと絵筆を入れたような縞模様だ。稜線伝いに道路の幅も狭くなる。
 途中に見晴らし台があり、グランドキャニオン(アリゾナ州)のノースリムからブライスキャニオンに至るまで、30億年に渡る地球の動きで堆積した地層が時代ごとに色と質を変えてまさに「大階段」状に連なっている様を見ることができる。

 12号を西へ1時間。いよいよブライスキャニオンだ。標高8000フィート、ブライスで最も見晴らしがいいサンセット・ポイントに着いた。先ほどまで雨が降っていたのだろう。空にはまだ厚い雲が残り、地面はぬかるんでいる。
 夕暮れまではまだ時間がある。晴れ間がのぞくことを祈って、お碗のような谷底へ続くナバホループ・トレイルを下った。

 1000万年前に台地だった場所が浸食されてできた奇妙で繊細な尖塔の群れ。にょきにょき動くサンゴのような、はたまたスカスカした人骨のような…。一度見たら忘れられない光景だ。
 先住民のパイユート族はこれを「神の怒りに触れて石に変えられてしまった人間の姿」と考えたそうだ。英語ではフードゥー(hoodoo)とも呼ばれる。神秘的で、まじないをかけられそうな薄気味悪さも残す。

 トレイルの戻りの急斜面はかなりきつく、途中で出た虹に励まされてなんとか登り切った。完璧な夕日は出なかったが、白とピンクの塔の群れがぽっと染まり、寂しそうに陰っていく様をパノラマで堪能した。
 


 

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