シリーズアメリカ再発見⑧ 高みへ!
ユタ 国立公園の聖域を訪ねて

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

Courtesy of Utah Office of Tourism

Courtesy of Utah Office of Tourism

 
DAY 5
 ブライスキャニオンから西へ2時間。今回の旅のクライマックス、ザイオン国立公園に入ると小雨が降ってきた。
 切り立った崖、巨大な一枚岩。写真で目にしたザイオンがすぐそこにあるのだが、頂きには霧が立ちこめていてよく見えない。

 ザイオン・ロッジからシャトルに乗り、レインコートをかぶって歩き出す。雨が強くなるにつれ、山のあちこちから岩を伝って水が流れ出した。細い流れが集まって一筋の滝になる。川の流れも早くなり、岩場に生えたコケやツルは、冬を前に最後の輝きを見せるかのように緑の勢いを増す。

 ザイオンの主な楽しみ方は3つ。川伝いに細い峡谷を歩くナローズ、最後は厳しい登山になるエンジェルズ・ランディング、乗馬で楽しむエメラルドプールだ。
 この日は結局、すべてが中止になった。川の水かさが増して鉄砲水の危険があるということだった。

 年間300万人が訪れるユタで一番人気のある国立公園だけあって、悪天候でも大勢の人がいた。せっかくここまで来たのに…。思いは皆同じだったが仕方がない。旅をしていればこういうこともある。

 岩場ではしゃいで写真を撮る子供たち、杖をついて果敢に川を渡るシニアハイカーたち。そんな元気につられてか、リスも顔を見せた。
 
 
DAY 6
 一路ソルトレークシティーへフリーウェーを北上する。

 ユタの旅で感じたのは、人間がつくるものはすべて自然のどこかにすでに存在しているのだろう、ということだ。私は石の大きな「つくりもの」が好きで、エジプトのアブシンベル大神殿や、サウスダコタのマウントラシュモア、崖に彫った石仏、そういうものに心惹かれて旅することが多い。そんな場所ではたいてい「光のショー」や「ジオラマ」といった演出がある。

 でもコロラド川で見た一枚岩はそのままでもう「神殿」であり、モニュメントバレーには空の色や雲との掛け合いだけで演出は不要だった。

 大自然を前にして畏怖の念を抱き、身をゆだねた先住民。ランドスケープに救われ癒された旅人。ほろ馬車1台で新天地を求め峡谷を進んだ宣教師たち。同様に、大自然に挑み、爆破してダムをつくったりウランを掘りあてて原子力に作り替えたり、そういう人間も沢山いた。

 コロラド川が何万年もかけてつくり出した風景は、そのまま私たち人間の歩みであり、アメリカという国の歴史とストーリーを刻んでもいるのだと思った。
 


 

1 2 3 4

5

6 7

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る