第3回 外見はあなたを映す
文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)
- 2013年7月20日
「ブラックタイ」「女性は白か黒のイブニングドレス」
場所はコスタメサ、ウエスティンホテルのイサム・ノグチ・ガーデン。何だか高級そうな場所だ。初めてもらったチャリティーイベントの招待状を手に、私は困り果てた。
その頃私は油絵を描いていた。オレンジカウンティー・コンテンポラリーアートという団体に属していた。会員は皆それなりに名前の売れたアーティストだった。面白い作品を創る団体だったので思い切って挑戦した。自分のビジョン、作品を提出し、審査を受けた。
どうして会員に選んでもらえたのかはわからない。唯一考えられるのは、私が日本人の女だったから、だろうか。彼らにはもの珍しかったのかもしれない。変わった人達ばかりだった。月に一度、ミーティングがあった。ギャラリーはかなり大きく、展覧会の打ち合わせ、運営方針などが話しあわれた。年齢も性別も、人種も、全て違う。彼らが全く同レベルで真剣に討議する姿は、新鮮な驚きだった。
会員のトムは成功したデザイナーで会社をもっていた。システィック・ハイブローシスという遺伝子の難病に苦しむ人たちを支える団体で慈善活動をしていた。この国では成功したら、何らかのボランティアをして地域還元するのが「人の道」らしい。トムから「大きなチャリティーイベントがある、病気の子供達を指導してマスクを作る、それをオークションに出して寄付金を募ろう」というアイデアが出された。私にもお声がかかった。教師の経験がある。引き受けた。
担当した子はレベッカといった。色の真っ白なやせた美しい中学生の女の子だった。身体も年齢より小さかった。すぐに疲れるようだった。二人で豪華なマスクを作った。思わぬできばえに彼女は喜んだ。
招待はそのお礼。一人200ドルのディナープレートがタダであった。トムはハイセンスな人物で会場設定全てを任されたと張り切っていた。徹底した白黒デザインでいくという。地元の篤志家が沢山パーティーに出席するらしい。
問題はドレスだ。ドレスを買う余裕は私にはない。イブニングドレスなんて、柄でもない。悩んだ挙句、手持ちの中から一番良い服を選んだ。色はピンク、丈は膝下までのアフタヌーンドレス、同色のジャケットをはおる。
カリフォルニアの夏のゆうべは爽やかだ。会場のあたりは既に華やかな雰囲気に包まれていた。ドキドキだ。会場に入った。凍りついた。想像をはるかに超えていた。大規模で豪華けんらんたるパーティーだった。並み居る男性は全員黒のタキシード、女性は胸や背中を大きく開け、スカートはフロアーを這っている。白と黒のみ。だれもかれも。なんということだ。私のピンクが浮いている。非難の視線がつきささる。逃げたい。会場はテーブルの上の花、キャンドルまで、徹底した白黒だった。ピンクを見つけたトムが怒った顔で、向こうからにらんでいた。
帰るべきだ。しかし、義務があった。レベッカに報告したかった。「良かったね、売れたよ、頑張って作ってくれたから」と。せっかくのディナーも何を食べたか記憶にない。マスクは良い値で落札された。
この失敗を境に、服装には気を配るようになった。初対面の相手、仕事の時、会合の時、パーティーの時。その場にふさわしく、かつ、自分という人間を短刀直入に表せる服装を心がけた。
「人は見た目が9割」という。人種のるつぼのアメリカだから、なおさらだ。それなら、自己表現の手段として上手に活用する手がある。注意して見ると、不思議に外見はそのまま中身を表している。外見を整えれば、内面もそれについてゆくのだろうか。あなたの外見は、ひょっとして、あなた自身かもしれません。あ、ちょっと、着替えてこようっと。
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