シリーズアメリカ再発見⑳
パームスプリングスの誘惑

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

スカートをはいた、パームツリー Photo © Mirei Sato

スカートをはいた、パームツリー
Photo © Mirei Sato

 インディアン・キャニオンは、コーウィアの子孫アグア・カリエンテ族(Agua Caliente)の居留地(リザベーション)になっている。レンジャーのレイブンさんの案内で、パームツリーの森を歩いた。

 「ヤシがあるところには、水がある。大昔、コーウィアの人たちはここを『SEKI』(sound of boiling waterの意)と呼んでいました。寒暖の差が激しく地震も多い砂漠の暮らしに、水は恵みと癒しをもたらしてくれたんです」とレイブンさん。

 コーウィアと水との関わりには、こんな伝説がある。ある日、湧き水の中に赤ちゃんがいるのをコーウィアの少女が見つけた。救おうとしたが流れに巻き込まれ、沈んでしまう。メディスンマンである父は、蚊を使って湧き水に魔法をかけたが、少女は死んでしまった。人々は水辺に集まって祈り、供え物をした。以来、コーウィアの人たちは水を怖がるのをやめ、鉱泉がもつ癒しの力を敬うようになった。

 今もここはコーウィアにとってのホームランドで、祖先の足跡をたどれるトレイルが幾つも残っている。

 岩の影に小さな虫がいた。見つけたレイブンさんが「踏みつけないように」と注意した。虫は、もとはインディアンだったそうだ。地面に耳をあてて敵の部族がやってきたら教えるようにと「見張り番」を言いつけられていたのに、敵族の女性と恋に落ち、襲撃を教えなかったので、罰としてメディスンマンに虫に変えられてしまった。こうすれば、しっかり耳を地面につけているだろう、と。

 インディアン・キャニオンは広い。奥までいけば滝もある。馬に乗って回ることもできる。乾いた砂地、赤い岩、一直線に並んだパームツリー、きらきら輝く泉。高台からは、パームスプリングスの街が見渡せる。夏には、満天の星空を眺めるツアーもあるそうだ。

 アメリカの旅に国立公園の存在は欠かせないけれど、ネイティブ・アメリカンの居留地にある公園(トライバル・パークなどと呼ばれる)にも魅かれる。観光客が少なくて、たいていはその部族の人が案内してくれるからだ。部族がたどってきた道のりや語り継いできた伝説を聞きながら、ゆっくり回れるのがいい。

 パームスプリングスの夕日は、サンヤシント山の裏に落ちる。標高3300メートルもあるので、時間をかけて落日する。この時間帯を地元の人は「マジックアワー」と呼んでいる。そして朝日。ごつごつした素っ気ない山が一変し、ピンクと紫色に染まる。
 


 

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