第12回 届いたラブレター

文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)

 あんなラブレターをもらったら、来ないわけにはいかないよ。早稲田大学グリークラブOBの口からもれた言葉である。うれしかった。

 卒業生たちでつくる校友会「LA稲門会」は今年、創立60周年をむかえた。盛大な記念行事が1年前から準備された。目玉は106年の歴史を誇る合唱の名門、グリークラブOB20名を日本からむかえ、歌ってもらうことだった。

 発端は4年前日本で開催された校友会世界大会だった。そこで学生グリーの校歌を聞いたW氏は感動で鳥肌が立った。全身を揺り動かし、渾身の力を振り絞って歌う学生達。

 「なんとしてでもこの肉声をLAで頑張る同胞に聞かせたい」彼の夢がうまれた。

 W氏は文武両道、何でもできる。その上、人情の機微にあふれ、ユーモラス。彼の夢ならぜひとも協力したい。しかし、実現は容易ではなく、彼の4年間の努力はすぐには実らなかった。が、とうとうチャンスはやってきた。60周年記念とあって早大総長の後押しまであり、学生ではなくOBの米国招聘が決定したのである。グリーOB1700名の内、なんと平均年齢70歳のベテラングループ「倶楽部グリー」が訪米することになった。

 彼らの当初の予定は、敬老ホーム慰問と総会でのコンサートだけであった。「コンサートホールで歌わせてあげたい」私は単純にそう思った。同じ頃、所属する混声合唱団OCFCの定期演奏会がある。グリーにゲスト出演してもらえないか。我々にも勉強になる。

 創立4年の我々と50年の合唱歴のグリーでは実力の差は大きい。うまくいくだろうか。不安がつのる。過去グリーが訪米したのはなんと16年前。これは一生に一度のチャンスかもしれない。私は大胆にも彼らに手紙を書き、OCFCにはコラボレーションの提案をした。それがどんなに大変なものなのかを知らずに。

 すべてが初体験で何をどうしていいかわからない。経験ゼロ、先行き見通しゼロ。あるのは情熱だけ。長い暗いトンネルを一人で歩いているような不安な日々だった。そんな時、M後輩から一通のメールが入った。

日本から来てくれた「倶楽部グリー」の皆さん Photo © Chizuko Higuchi

日本から来てくれた「倶楽部グリー」の皆さん
Photo © Chizuko Higuchi

 「先輩が今しようとしているコラボはすばらしいことです。先輩が鍵を握っているのです。離さないで下さい」彼女は学生時代「デーモン小暮」とバンド活動をしていた。コンサートづくりのノウハウを細かく教えてくれた。私はわらをもつかむ気持ちで教えられるとおりに全てを準備した。暗いトンネルに一条の光が差し込んだ。「できる、できる」自分に言い聞かせた。一点の光に向かって走れ、と。

 合同コンサートは3時半開場。その2時間前に2つの合唱団、司会、ステージマネージャー、受付ボランティア、全ての人たちが初顔合わせをした。ステージ構成の最終打ち合わせ、500人の観客をさばく受付への指示、 出演者は合同曲を練習、入退場の動き、記念撮影。時間はあっという間に過ぎた。

 いよいよ開場だ。なんとお客様が来るわ来るわ。たちまちの内に満員御礼になった。鍛えられたグリーの声は会場に響き渡る。はり、つや、伸び、声量、ピッチ、全て一流だ。その上、聴衆の心をつかむ舞台は見事なもの。ベテランの味です。喜んだお客様はやんやの喝采だ。熱いコンサートになった。総勢70名の「遠い日の歌」「ナブッコ」の迫力。日米の大きな虹のハーモニーが会場を包んだ。

 最後はもちろん、お客様と一緒に「ふるさと」の大合唱です。泣いている方もありました。「歌ってください、あなたのふるさとを。私たちは米国で生きて来たあなたのために歌っています」ソプラノの最後列で歌いながら、私はこの一瞬を創り出せた喜びを胸に、お客様に語りかけた。

 つたない一通の手紙に応え、すばらしい歌声を届けに来てくれた素敵な先輩たち。ありがとう。ラブレターは届きました。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
STS Career

注目の記事

  1. 2025年12月1日

    就職&雇用ガイド2025
    監修 STS Career https://usfl.com/author/stscar...
  2. 2025年10月8日

    美しく生きる
    菊の花 ノートルダム清心学園元理事長である渡辺和子さんの言葉に、「どんな場所でも、美しく生...
  3. 2025年10月6日

    Japanese Sake
    日本の「伝統的酒造り」とは 2024年12月、ユネスコ政府間委員会第19回会合で、日...
  4. アメリカの医療・保険制度 アメリカの医療・保険制度は日本と大きく異なり、制度...
  5. 2025年6月4日

    ユーチューバー
    飛行機から見下ろしたテムズ川 誰でもギルティプレジャーがあるだろう。何か難しいこと、面倒なこ...
  6.        ジャズとグルメの町 ニューオーリンズ ルイジアナ州 ...
  7. 環境編 子どもが生きいきと暮らす海外生活のために 両親の海外駐在に伴って日本...
  8. 2025年2月8日

    旅先の美術館
    Norton Museum of Art / West Palm Beach フロリダはウエ...
ページ上部へ戻る