第23回 闇を照らす

文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)

 4年前の3月11日。東日本大震災の記億は除々に薄れ始めている。しかし、あの時から多くの人たちの生活が全く変わってしまったことを忘れてはなるまいと思う。

 当時、米国に住む日本人の殆どが義援金集めに参加したはずだ。私の会社の同僚の米国人もさっと寄付を募ってくれた。彼らはこういう時、すぐに行動に移す。彼らの強みだ。

 小さい子供がいる日本人のお母さんたちも外へ出て、おにぎりを売り、手作りの小物を売りして、義援金集めに奔走した。その姿に胸が熱くなったものだ。

 私の姉は修道女で仙台に住んでいる。その修道会が経営する保育園も被災し、建物の一部が崩壊した。丘の中腹に建っていた。ここは、政府の援助を受け、シングルの親を持つ子供を3歳児から優先的に預かっている。姉の話では、午後3時は丁度子供のお昼寝の時間。気持ちが悪くなるほどの揺れが長く続いた。一大事が起こったと悟り、すぐに子供たちを起こしたが、ぐっすり寝ている子供はなかなか起きない。大人でも立って歩けない揺れの中を、子供たちをはわせて裏山に登らせた。家族の安否を気遣う職員を帰宅させたい。が、小さな子供の世話がある。帰せなかった。それが幸いして、津波を免れ、子供も職員も全員死なせずにすんだと姉は後に言った。一週間、電気も水道もない生活を送った。

 姉は20年前、阪神大震災の後に現地に行き、1カ月間ボランティアとして働いた。死者を沢山見たそうである。今度はそれが、自分にふりかかった。信じられない光景に2度出くわしたわけである。

窓から流れる光 Photo © Chizuko Higuchi

窓から流れる光
Photo © Chizuko Higuchi

 一方、在米の私は知り合いから相談を受けた。商取引先のTさんという人が被害を受けた日本に義援金を送りたいといっている。赤十字などの団体を通してではなく個人に送りたい、どこか知らないかと。姉の施設の話をすると、そこがいいという事になり、後日、姉の施設に1万ドルのチェックが届いた。金額の大小ではないが、個人でそれだけの寄付はなかなかできるものではない。そのお金を姉は建物の修復費の一部に当てた。

 姉はTさんにお礼のカードを書き、修復された建物と子供たちの写真を入れた。ところがその後も、小額のチェックがたびたび届く。1年経ってもチェックが届き続けると聞き、とうとう、Tさんとはどういう人なのか紹介者に尋ねてみた。

 その人は太陽熱を利用する製品を扱う会社の経営者だった。ペルシャ系女性。会社はロサンゼルスにあるが、自身はオーストラリアに住んでいるらしい。日本との取引で、商談が成立したら、売り上げ金の一部を寄付していると判った。それで、金額がまちまちなチェックが届くのだった。

 驚いたのは、寄付をする理由だった。「会社はもともと弟がつくった。彼は2003年にイランのケルマン州バムという『砂漠のエメラルド』とも呼ばれる美しい歴史の街に観光旅行に行った。遺跡見物をしていたその時地震に遭い、倒れた遺跡の下敷きになって亡くなった。だから会社の利益の一部を地震の被災者に寄付している」と。それを知ってから、姉はチェックを受け取るたびに必ず子供たちの笑顔の写真を送り続けた。今年も2月に又、チェックが届いた。あれから4年も経っているのに。

 愛する人を失った。その闇が耐え切れなく深い時、人は闇を照らす光を求める。たいまつの光を自分で掲げるという行為がかろうじて、ぽっかり空いた心のむなしさを慰めるのかもしれない。ボランティアを続ける裏には、時に闇があるのだと知った。

 Tさんの会社は最近経営は苦しいと聞いた。それでもチェックは届き続ける。Tさんを紹介してくれた人、中継ぎをした私、チェックを受け取る姉の施設、送られた子供たちの写真を見るTさん。「継続する」Tさんの無言の意志が、皆をつないでいる。

 闇を照らすたいまつは、たとえ腕が疲れてきても、最後まで、自分で掲げなければならないのだろう。生きるチャンスを奪われた人の無念を想う時、それは何ほどのことでもない。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう37年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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